成功経営者インタビュー

リックソフト株式会社 代表取締役 大貫 浩氏 インタビュー

本コーナーで掲載する経営者インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集しています。今回、ご紹介する経営者は、大貫 浩氏(リックソフト株式会社 代表取締役)です。(2021年9月8日 2021年9月15日 配信)

今回は、リックソフト株式会社の大貫浩社長にお越し頂きました。

近年注目を集めている製品開発手法である、アジャイル型開発。そのサポートツールで世界シェアNo.1を誇る、Atlassian製品で国内トップの導入実績を持つマザーズ上場企業様です。

計画を立て開発を実行するのではなく、状況の変化に対応しながら進めていくことで「より良いタイミングで、より良い商品(サービス)」を提供することが可能になります。商品の一強多弱時代で生き残るため「世の中に響く先進的な製品を作りたい!」という方は経営のヒントが得られます。ぜひインタビューをお読みください。

新谷哲:今回の経営者インタビューは、リックソフト株式会社の大貫浩社長です。まずは経歴のご紹介です。明治大学大学院を卒業後、日本電気株式会社にご入社されます。その後、2005年にはリックソフト有限会社を設立し、代表取締役にご就任。そして、2019年には東証マザーズに上場をされています。本日はよろしくお願いします。

大貫浩:よろしくお願い致します。

新谷哲:最初の質問です。ご出身はどちらですか?

大貫浩:茨城県龍ケ崎市です。

新谷哲:小学校時代はどのようにお過ごしでしたか?

大貫浩:1クラスか2クラスしかない田舎の小学校に通っていました。私は当時から理系で「何でも中身を覗いてみたい」と考えるような子供でした。そのため、道端に転がっているテレビがあれば拾ってきて分解をしたり、目覚まし時計のボリュームを大きくするためにスピーカーを取り付けたりして楽しんでいました。小学6年生の時には友人と、クリスマスツリーに飾り付けられている数十個の電飾を、1個にして電源を繋げたらどうなるかを試したことがあります。予想通り「パーン!」と破裂し、勉強どころではありませんでした(笑)そんなことばかりやっていて、親からは「破壊者」と言われていましたね。

新谷哲:小学生の頃から研究熱心だったのですね。

大貫浩:興味を持つと行動せずにはいられない少年でした。

新谷哲:中学校時代はどのようにお過ごしでしたか?

大貫浩:当時は小説にハマっていて、ハヤカワノベルズや、小説版のガンダムなどをよく読んでいました。未だに好きな人たちで集まると、古い名作を思い出し熱く語ってしまいます。

新谷哲:高校時代はどのようにお過ごしでしたか?

大貫浩:茨城県立藤代高校に進学しました。家から高校まで自転車で1時間の距離を通学していたので、陸上の選手に選ばれるほど体が鍛えられました(笑)

新谷哲:往復2時間とはすごい距離ですね!

大貫浩:小学校が廃校になるほど過疎化が進む田舎だったので、希望の高校に行くには距離が遠い場所に通うしかありませんでした。覚悟はしていましたが、予想以上に遠かったです。

新谷哲:その後、明治大学情報科学科へ進学されます。こちらを選ばれた理由はございますか?

大貫浩:たまたまです。情報科学科はコンピューターを学ぶ科ですが、もともとはバリバリ理系の電気工学部・電気工学科のある大学を希望していました。たまたま、明治大学情報科学科の試験日が空いていて、何を学ぶのかも知らず受験をしました。そして、仲の良い友達も同時に受かったので「一緒に行こう!」と、進学をすることにしました。偶然が重なり決めた進学が現在に繋がり、自身にとって大きなターニングポイントだったと今では感じています。

新谷哲:大学からコンピューターに接するようになったのですか?

大貫浩:中学生の頃から好きでした。当時は小説が好きだった仲間たちと一緒に、BASICでプログラムを組んだり、ゲームで遊んだりしましたが、高校ではコンピューターから少し離れていました。大学に入り本格的に「コンピューターサイエンス」を学び知識を付けたことで「歴史は浅いけど面白い!」と気づき、のめり込んでいきました。

新谷哲:コンピューターサイエンスの道を極めようと大学院まで進まれたのですか?

大貫浩:はい。その頃はまだインターネットが無く、今日のインターネットの前身と言われるJUNET(ジュネット)という日本の大学や研究機関を結ぶ研究用ネットワークがありました。そこに、海外の大学から新しいソフトウェアが流れてくるのですが、言語の問題などもありそのままでは動きません。そのため、パッチ(修正プログラム)を当てるなどをして、日本でも使えるように試行錯誤をしていました。私は明治大学情報科学科の1期生で、ゼミ室が使い放題だったので、週3日は泊りがけでそんなことをやっていました(笑)誰の為でもなく「なぜ、あんなにパワーがあったのだろう?」と今では不思議なほどです。

新谷哲:大学院卒業後は、日本電気株式会社(NEC)にご入社されました。こちらを選ばれた理由はございますか?

大貫浩:もともと、電気・コンピューター系が好きだったので、日本アイ・ビー・エム、もしくは国内メーカーのどこかに就職したいと考えていました。そんな中、NECを選んだ理由は2つあります。1つ目は、日本中にNECの家庭用コンピューターが広まっていた時期で、それを作っている会社に行ってみたいと感じたからです。2つ目は、当時NECだけが中途採用をしていなかったからです。企業研究中にそれを知り、「このタイミングを逃すとNECに入ることができない!」と、プレミア感が芽生え入社を決意しました。

新谷哲:NECでの思い出はございますか?

大貫浩:入社後は、法人向けシステム開発の中でも、他社製品を仕入れてお客様にソリューションとして提供をする技術部隊に配属されました。マルチベンダの走りで「社内に同じ製品があるのに、なぜ他社製品を使うのか?」と、社内からは裏切り者呼ばわりもされました (笑) しかし「他社製品に負けない良いものを作ってよ!」と議論をしながら、お客様に最善のものを提供できるよう取り組んでいました。

新谷哲:その後、2005年にはリックソフト有限会社を設立し、代表取締役にご就任されました。こちらは独立ですか?

大貫浩:はい。実は、 NECは実質3年半ほどで辞めていて、個人事業主として7年間フリーランスをしていました。そして、2005年に有限会社化をしました。

新谷哲:独立をされたきっかけはございますか?

大貫浩:NECの仕事も楽しかったですが、大学の頃ほどのめり込むことができずにいました。そんな時、あるベンチャー企業の社長さんに「○○業界の○○分野を一緒に獲りに行こう!」とお声がけを頂きました。NECを退職することを決意し、事業を起こしたのですが、時代的に早過ぎたこともありその事業は成功しませんでした。その後は、2年ほどプログラミングを中心にした活動をしていましたが、当時のITベンチャーの働き方は酷く、15時間~16時間プログラミングをすることがざらでした。私はすでに家族を持っていたので「これでは上手くいかない」と気づきました。NECに在籍していこともありIT業界の成り立ちは分かっていたし、当時から企業ごとに入社経路がネットを探せば出てきました。「ここに行けば多分ここへ行けるだろう」と逆算することで、計画通りに近場の安定的な金融系IT子会社にフリーランスとして入り込め、10年間ほど勤務をしました。

新谷哲:フリーランス、個人事業主として金融系会社に自身を売り込んだのですね!その後、リックソフト有限会社を設立されたきっかけはございますか?

大貫浩:「いろいろな仕事を任せたいから、部下を連れて来てくれないか?」とご依頼を頂きましたが、会社でないと契約ができなかったからです。

新谷哲:リックソフト有限会社では、当初より上場をお考えでしたか?

大貫浩:全く考えていませんでした。ベンチャー企業を起こしたときに失敗をしたので「生活・健康第一」を心のスローガンに、安全に行こうとしていました(笑)

新谷哲:いつ頃から上場を意識されましたか?

大貫浩:あるベンチャーキャピタリストが、2014年の年末にいきなり連絡をしてきました。「この数字があれば上場まで行ける方法があるけど、やる気はある?」と聞かれ、そこで初めて「そんな方法があるのか!」と上場を意識しました。

新谷哲:起業当初と変化があったのですか?

大貫浩:はい。2009年から、アトラシアン (Atlassian) というオーストラリア企業のソフトウェアプロダクトを日本に持ち込み、技術サポートを開始しました。2014年は、人も売上も増え、会社的には凄く成長していた時期です。その反面、急激な変化に対応しきれず「外から見ると順調そうでも、このまま事業が成長していけば空中分解してしまうのではないか?」と非常に強い疑念をかかえていました。そんな時にベンチャーキャピタリストからお話を頂いたので、正直に当社の課題を話すことにしました。すると「上場は派手に見えるけど、実はそこに行くまでの数年間、しっかり計画を立てながら会社の中を整えていきます。上場という機会をきっかけに、証券会社や監査法人などいろんな人が協力してくれるでしょう。大貫さんの抱えている課題が解決するかもしれませんよ?」と背中を押してくださいました。私はお話を聞き「これならば根本的な解決に繋がるだろう」と可能性を感じました。自社で足りないノウハウや知識を提供いただけるチャンスがあるならば挑戦してみようと、上場を目指すことを決意しました。

新谷哲:2019年に東証マザーズに上場をされました。それまでのご苦労はございましたか?

大貫浩:はい。会社を大きくするとは考えてもいなかったので、上場に向けたステップの説明を受けた時は、正直何を言われているのか分かりませんでした(笑) 「まず、会計から固めていきましょう」と言われても、当時は私と経理の女性2人でやっていて、詳細は会計事務所に頼んでいました。それを内製化するため新たに経理の方を雇い、整えていきました。次に、売上計画・予算策定へと取り組んでいきました。売上げは「鉛筆なめなめ」の帳尻合わせでは将来困ってしまうので、計画通りに2年後、3年後の売上がわかるようなロジックを組んでいく必要があります。今まで経験のないことも多く非常に難しかったですが、証券会社の方に1から説明して頂き真面目に取り組みました。今考えるとこれらの経験は、自分達のビジネスを深く理解するのに非常に役立ったと思っています。

新谷哲:ありがとうございます。もしよろしければ、リックソフト株式会社の事業内容をお教えいただけますか?

大貫浩:弊社のメインビジネスは、海外の先進的で洗練されたツールを日本へ持ち込み、120%使えるようサポートをすることです。特にその中でも、近年注目を集めている製品開発手法である『アジャイル型開発』のサポートツールとして世界一普及している、Atlassian(アトラシアン)製品をメインで取り扱いっています。なぜ、アジャイル型開発が求められているかを、自動車業界を例に解説いたします。従来は自動車のモデルチェンジを必ず2年ごとにしており、営業力の差により商品の売れ行きが左右されることが多くありました。しかし現在では、モデルチェンジに正確な周期は無く、売れる物を売れるタイミングで発売しなければ消費者から購入していただけません。また、インターネットの普及によりすぐに比べられてしまい、良いものでなければ「悪い」という口コミが出回り、売れなくなってしまいます。1製品だけが勝者になり、それ以外は敗者になってしまう時代なのです。そのため、本当に良い商品を良いタイミングで世に出していくためにはどうすれば良いのかを考えると、アジャイル型開発が必要になってきます。海外では既にこの動きが進んでいて、テスラのような自動運転の車が発売され、人気を博しています。その他にも、ネットで言えばFacebook、Twitter、Amazon、などのサービスも全てアジャイル型で開発されているのです。そこで、実際にアジャイル型開発を取り入れるとなると、何百人何千人という大人数で1つのものを作り上げていくので、集計ツールが必要になってきます。弊社では、そこで使用されるツールを海外から日本に持ちこむだけではなく、その背景にある、考え方・働き方・組織形態などのノウハウも一緒に提供させて頂いております。日本の製造業は、製造力を持っていますし、ハイアラーキーがよく出来ていると感じます。その反面、硬直化しているとも言えます。海外では文鎮型と言われる、1人の管理職が多数の部員を管理するような組織形態や、アジャイル型開発が主流です。これらを取り入れて、良いものを素早く企画し製造へ繋げていかなければ「自分達の事業が無くなってしまいますよ」と伝えたくて、大手のお客様を対象に提案をさせて頂いております。世の中に響く先進的な製品を作りたいとお考えの企業様はサポートをさせて頂きますので、ぜひお声がけください。

新谷哲:ありがとうございます。ここからは違う質問をさせていただきます。好きなもの、好きなことをお聞きして、今は断捨離モードで欲しいものは特に無いそうですが「ものづくり、読書(ビジネス書)、妄想しながら考える事、知らない人との会話、昔は車が好きだった」とお答えいただきました。たいへん面白いご回答を頂きました。どのような妄想をされるのですか?

大貫浩:私は、中学の頃から読書が好きで、社会人になってからはビジネス書をよく読み、いろいろなものをインプットしています。ある時期から、就寝前の読書が恒例で、それを元に「今後はこうなるのではないか?」と予想を立てながら眠りにつくようになりました。そうすると、時々考えていたことが夢に出てきます(笑)さらに何が楽しいかというと、妄想していたことが将来、実際に起こることがあるのです。予想を的中させるには大量のインプットが必要ですが、将来の答え合わせで「当たった!」と思えるのが嬉しくて、面白くて、今でも毎日妄想を続けています。

新谷哲:毎日とは凄いですね(笑) ご趣味も仕事に近いことをされているのですね!

大貫浩:悩みがありできない時もありますが、妄想は毎日しています(笑)私は「仕事は厳しいものではなく、趣味の一環」と思っている所があるのかもしれません。お客様からは「大貫さんは仕事が趣味だよね」や「趣味で上場までできて良かったよね」と言われることがよくあります。その方達かすると、説明をしているときの私がとても楽しそうに映るそうです。「嘘ではこれだけ言えないだろうから信じてみよう!」 と導入を決めて下さったと後で伺いました(笑)

新谷哲:座右の銘もお聞きして「特になし」とお答えいただきました。座右の銘をお持ちにならない理由は何かございますか?

大貫浩:座右の銘を一つに決めると、そこに固定されてしまうのが嫌で持っていません。その時々で必要なことを必要に応じて取りに行くようにしています。オンデマンド的に、その時に必要な本を読み、それで足りなければ専門家へ話を聞きに行きます。上場の際も、プロにお任せをした方が良いと考え、お話を聞きまじめに取り組んできました。また、私は数年単位で注目するものが変わります。最近では、YouTubeに注目していて、いろいろな面で先生になってくれています。メディアが世の中に広まる時、そのコンテンツを作る人の所にはよい人達が集まります。例えば、CDが普及し始めたときは、そこに本の内容を吹き込んだメディアを出していた方がいました。とても良いコンテンツが入っていたので、当時はそのCDを聞きながら勉強をしたものです。しかし、飽和状態になると良いコンテンツを探すことが難しくなるので、その人達は別のメディアに移って行きます。時流を素早く感じ取り、最先端の人たちが発信しているところへ情報を取りに行くことが重要だと感じています。

新谷哲:大変勉強になります。次が最後のご質問です。全国の経営者、これから起業する方に向け、経営者として成功する秘訣をお教えください。

大貫浩:私の思う成功の秘訣は「自分の強みが活かせるところでビジネスをする」です。いろいろな社長とお会いして、それぞれの強みがあり、成功の秘訣は1つや2つではないと感じます。私の場合は、小学校の頃から道端に落ちているテレビを拾ってくるほど、技術的なものに興味がありました。大人になり、世界中のネット情報を渡り歩き、よく使われているツールの調査を始めたときもそうです。英語が得意でなくとも、外国の方に直接話を聞きに行くことを恥ずかしげもなくできるほど、興味のあるものには熱狂的にのめり込みます。何かを突き詰めたいと感じたら、それは「仕事」という感覚ではなく「興味」であり、熱量を持って取り組むことができます。自分の興味が勝ることを仕事にすることで、壁を乗り越える力に繋がり、勝ち残っていけるのではと思います。

新谷哲:大変参考になるお話でした!大貫浩社長、本日はありがとうございました。

大貫浩:ありがとうございました。

編集後記

今回は、大貫浩社長でした。たいへん面白いお話でした。特に “妄想好き”というところに注目をしました。ビジネスの妄想をすることは、事業戦略を立てる上でとても重要です。弊社の創業時にも、SoftBank、Amazon、楽天などの本を読み漁ったり、株価を見たりして、各企業の動向を参考に「こうしたらこうなるのではないか?」と妄想をしたものです。大貫浩社長は仕事もお好きで、大量のインプットをされた上で、ビジネスの妄想をしてこられたからこそ、良い会社を作ることに成功し、上場まで持っていくことができたのだと感じます。ぜひ皆様も参考に、共に成功社長を目指していきましょう!

大貫 浩氏
リックソフト株式会社 代表取締役

茨城県龍ケ崎市出身。明治大学大学院を卒業後、日本電気株式会社にご入社されます。その後、2005年1月にソフトウェアの設計・開発・販売・保守を中心に手掛けるリックソフト有限会社を設立し、代表取締役にご就任。2009年5月には、アジャイル型開発のプロジェクトマネジメントツール世界シェアNo.1を誇るAtlassian Pty LTD.と代理店契約(エキスパート)を締結されます。以降、日本・アジアパシフィック地区売上No.1にまで成長し、2019年には東証マザーズへ上場、2021年には最も優れたサービスを提供した企業としてアトラシアンパートナーアワードにて、表彰をされています。世界の価値あるツールを日本に広めるとともに、自社開発ソフトを世界に広めることで、開発現場での業務効率化・生産性向上を図り、魅力的なプロダクトの誕生へと寄与されています。

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本インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集したものです。文中に登場する社名、肩書、数字情報などは、原則、収録当時のものですので、予めご了承ください。
今回は、大貫 浩氏(リックソフト株式会社 代表取締役)の経営者インタビューを取り上げました。

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