成功経営者インタビュー

株式会社Sapeet 代表取締役社長 築山英治氏 インタビュー

本コーナーで掲載する経営者インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集しています。今回、ご紹介する経営者は、築山英治氏(株式会社Sapeet 代表取締役社長)です。(2025年3月12日 2025年3月19日 配信)

今回は、株式会社Sapeetの築山英治氏にお越し頂きました。大学院時代、アメフト部で体重を60kgから100kgに増やし体格が変化し、オンラインでの衣服購入に悩み、これをきっかけに3D着装シミュレーションの研究に従事。この研究を元に株式会社Sapeetを設立し、上場企業へと導いたお話から経営のヒントが得られます。

新谷哲:今回の経営者インタビューは、株式会社Sapeetの築山英治社長です。まずは経歴のご紹介します。岡山県倉敷市のご出身で、東京大学大学院の工学系研究科をご卒業。大学院にてクラウド3D着装シミュレーションの研究に従事した後、株式会社Sapeetを設立。そして、2024年に東証グロース市場に上場を果たされました。本日はよろしくお願いいたします。

築山英治:よろしくお願いいたします。

新谷哲:最初の質問です。岡山県の倉敷市ご出身ですが、小学校時代はどのようにお過ごしになられましたか?

築山英治:スポーツ好きで野球をやっていたので、ポジティブというか活発でした。途中からは運動だけでなく、塾に行くなど勉強面も頑張りました。割と文武両道だったと感じています。中学は岡山県の赤磐市にある中高一貫の私立に進学します。倉敷から電車で1時間くらい離れていました。

新谷哲:中学校時代はどのようにお過ごしになられましたか?

築山英治:野球部に入って、基本的にずっと野球をしながら、友達と帰りに駅でココイチでカレーを食べたりしました。

新谷哲:野球のポジションはどこでしたか?

築山英治:センター、レフト、ライトと転々としました。たまにピッチャーもしましたが、基本的に外野です。

新谷哲:高校時代はどのようにお過ごしになられましたか?

築山英治:相変わらず野球をやっていました。3年生の夏ぐらいまで野球漬けで過ごし、夏以降は受験に向けて勉強を頑張り始めました。

新谷哲:短期間で東大に合格できた集中力は、野球で培ったのですね。事前にいただいたプロフィールでは東京大学大学院工学系研究科卒とありますが、最初から理系を目指していたのですか?

築山英治:東京大学には文科二類で入学しました。親が医者でして、高校のころも最初は理系で医学部を目指していたのですが、高校2年生の時に担任から「医者以外だったら何になりたいか」を聞かれ、そこで初めて医者以外の可能性を考えます。当時はライブドアの堀江さんやサイバーエージェントの藤田さんのようなITベンチャーの社長がよくテレビに露出している時期で、彼らに淡い憧れみたいな気持ちを抱いていました。それで、起業関連の本を読み漁り「経営者になるには経済学部に行くほうが良さそうだ」と感じ、文系で入学しました。

新谷哲:入学時から起業マインドが強かった感じですか?

築山英治:そうですね、起業サークルみたいな学生団体にも所属していました。そこでビジネスコンテストの企画運営をしたりして、起業されている先輩とも接しましたが、ふとテレビで甲子園の試合を観たときに「ビジネスチックなことは社会人になればできる。逆に今は学生しかできないことをやるべき」と思い立ちました。それで、改めて学生のときしかできないことを考えた時に、部活動という答えが浮かんだんですね。新歓のときにアメフト部の先輩と知り合っていたので、試合を見に行ったところからヒョンヒョンと話が進み、大学1年生の秋ぐらいからアメフト部に途中入部しました。

新谷哲:東京大学のアメフト部というと、非常にレベルが高い部活だと思います。築山英治社長は足が速かったと伺っていますので、アメフト部ではさぞ活躍されたのではないでしょうか?

築山英治:それが、そうでもないのです。最初は本当に足が速いポジション、ランニングバックの中のテイルバックでやっていたのですが、単発的に試合に出ることはあったものの、常時出場する機会は3年の途中ぐらいまでありませんでした。それで「アメフトやめようか」と考えていた時期に、ポジションが変更になります。ランニングバックの中でもブロック寄りのフルバックと、タイトエンドといったポジションなりました。ラインの中でも一番端っこで、パスを取ったりブロックもするポジションです。選手名鑑を見ると、このポジションの選手は体重が90~100kgの方々ばかりです。私は3年生当時、70kgちょっとぐらいで「これは大変だ」と思い、飯トレと筋トレを必死でやりました。身体作りができるとともに徐々に活躍もできるようになります。それからは、常時、スタメンとして試合に出られるようになりました。

新谷哲:一気に30kg近く体重を増やすのは大変ではありませんか?

築山英治:本当に大変でした。そもそもアメフト部員はみんな身体作りに苦労しています。私は比較的太る才能がありました。基本的に空腹は体重が減っているときなので、3時間おきくらいに、とにかく食べました。ルーティンのように、1日5食~6食ぐらい食べて、プロテインを飲んで、筋トレもします。それでも、シーズン中は痩せてしまうので、シーズンオフの時にいかに太るかを頑張りました。

新谷哲:その後、大学院に進学なさいますが、最初から工学系だったのですか?

築山英治:東大生は最初は共通の学部で学んで、3年生~4年生のときに専門の学部を選択します。起業するために経済学を学ぶよりも、プログラミングだとかITの知識があったほうが有利ではないかと考えて、理系に進みました。大学院でもその流れのまま、工学系を進路として選んでいます。文系から理系に進むのは珍しいことだと思うのですが、東大は進路選択の自由度が高いので、比較的そういう道を選びやすかったと感じています。

新谷哲:大学院ではどういう勉強をされたのでしょうか?

築山英治:主に物理演算を行っていました。選んだきっかけは、学部生時代にネットショップでジャケットを買ったらパツパツで着れなかったという経験をしたことです。アメフト部のメンバーに聞いたら、同じような失敗をしていたことから「オンライン上で試着できるシステムを作れば、この問題が解決できてビジネスになるかも」と思い至りました。研究室は、そのアイデアを実装するための技術が学べるかどうかで選びました。

新谷哲:大学院時代の思い出はありますか?

築山英治:もうひたすら、クラウド着装シミュレーションシステムをどうやったら作れるかに集中していました。いろんな論文を探して、実装できたら他人に意見を聞いて、事業検証に没頭していましたね。五月祭に研究室でブースを出したり、3Dスキャナーの会社さんと組んで、スキャンした自分のアバターに服の3Dデータを着せてみたり、とにかくアイデアの実現と改良に取り組んでいました。

新谷哲:当時だと、3D着装シミュレーションは珍しかったのではないですか?

築山英治:はい。クラウドで本格的に物理演算ベースの3D着想シミュレーションをするサービスはどこにも類似例がなくて。たぶん、私たちが世界初だったのでは、と思っています。

新谷哲:大学院で研究を進める中で、教授を目指そうとは思われなかったんですか?

築山英治:常に「起業」というゴールを見据えていたので、大学院もそのためのステップとして捉えていました。

新谷哲:大学院卒業後は、すぐに株式会社Sapeetを設立されたのでしょうか?

築山英治:はい。大学院2年の時に、会社の箱自体はできていて、企業さんとやりとりさせていただいていました。本格的にSapeetとして動き出したのは卒業後ですね。就活と投資家回りを並行していて、就職先が決まったと同時に投資のオファーももらいます。そこで「卒業後もこの会社をやっていくぞ」と腹をくくりました。

新谷哲:就職と比べて起業はリスクがありますが、怖さなどはございましたか?

築山英治:怖さはありました。半分、ワクワクもあったんですけど、いざ内定辞退の連絡をした後は、若干ナーバスになりました(笑)。事業も会社も小さいところから、身一つでやっていくと思うと、やはり怖さはありましたね。

新谷哲:ご両親の反応はいかがでしたか?

築山英治:母親には強く反対されました。親心だと思いますが「まずは社会人としての基本を学ぶために、就職をした方がいい」と言われていました。起業すると知ったときは激しく反対していましたね。その反面、父親は「お前の人生なんだから好きにしなさい」と背中を押してくれました。

新谷哲:Sapeetの事業は最初からAIやDX、先ほどの3D着装シミュレーションだったのでしょうか?

築山英治:最初の事業は、アパレルECサイト向けの仮想試着ツールでした。このツールは何社かに導入していただいたのですが、服の3Dデータを作るコストに対して具体的にどれだけ売上が変わるのかが説明しづらく、見栄えにも課題がありました。加えて、「試着する」ボタンを押してからアバターが試着するまでのレスポンスの遅さなどが、改善点としてありました。総合的に考え「この事業は十年早かったかもしれない」と一旦ピボットすることにしました。次に始めたのは、ソリューション提供です。当時はZOZOスーツが出始めたころで、ZOZO以外のアパレル大手さんから「うちもああいう技術を使いたい」とお声掛けいただきました。そこで、仮想試着ツールの中の体型推定AI技術を顧客ごとの要望に合わせてカスタマイズして、システム開発を行う事業をやり始めました。

新谷哲:上場は当初より目指していたのでしょうか?

築山英治:創業当初は目指していましたが、今から6年前、投資家巡りをしている中で、PKSHA Technology代表の上野山さんにお会いし、そこでM&Aという形のオファーを受け入れたタイミングで上場の意識はなくなりました。PKSHAのグループに入って3年が経ったころ「そろそろ完全子会社化するかどうか」といったタイミングが来たので、上野山さんに相談しました。Sapeetは、私のアメフト部や研究室の同期後輩など、友人たちを集めてできた会社です。その友人がまた友人を呼んで、といった流れで組み上がったチームで「これからも仲間たちと一緒に事業を続けていきたい。なんなら独立してやっていきたい」という思いを正直に打ち明けます。そうしたやりとりを通じて背中を押していただけて、そこから上場を目指し始めました。

新谷哲:マネジメント・バイアウトまではいかないが、そのまま上場を目指す、といった感じでしょうか?

築山英治:そうですね。結果的に日テレさん始め、外部の出資者の方から第三者割当で出資いただきました。IPOで出資というか資金調達を経て、PKSHAのグループ連結から外れて、独立しました。

新谷哲:上場に向けてのご苦労というのはございましたでしょうか?

築山英治:もともとPKSHAのグループにいたというのもあり、組織規模が小さいころから管理面はちゃんとしていたので、その点ではあまり苦労はなかったですね。また、今ジョインしていただいているCFOの佐藤が前職で上場を経験しておりまして、それも心強かったです。私としては、周囲のおかげで上場準備が勝手に整っていく、といった感覚で進んでいったのが正直な感想です。しかし、やっぱり事業面は苦労しました。どの会社様も「予実を合わせる」とおっしゃりますが、そこがIPOに関しては一つ大変なところかなと思っております。

新谷哲:株式会社Sapeetの事業内容をご説明いただけますか?

築山英治:弊社はExpert AI事業を行っております。AIの中でも、バックオフィスなどのノンコア業務の効率化ではなく、主に営業面やサービス提供面を担っています。例えば、整体師さんだったら「施術」というところにコアの価値があり、各エキスパートが業務をしていると思います。そういった部分を一部AI化することによって、エキスパートたちの業務をより魅力的にできるAIを開発しております。そういったAIをソリューションという形やAI SaaSと呼ばれるパッケージシステムでご提供したりしています。

新谷哲:お打ち合わせの際にM&Aのお話もされてましたが、もしよろしければ、そのお話もお願いします。

築山英治:弊社はAIソリューション提供の面では、顧客ごとのご要望やニーズにお応えするかたちでAI開発をしたり、AIを組み込んだシステム開発を行っています。そうした業務の規模拡大に寄与していただけるようなシステム開発会社さんとかには、これからも協業やM&Aなどでグループインいただけると嬉しいです。また、AI SaaSでは、ウェルネスの領域で行きますと、いわゆるシセイカルテといった「画像で姿勢を分析する」機能と、マルチカルテという各社ごとにカスタマイズできる電子カルテというものを提供しております。今後はそれを、店舗のDX化を一手に行えるようなオールインワンSaaSに育てていきたいと考えておりますので、予約や決済などの機能を得意とするシステム会社さんともご一緒できる余地があると感じております。それ以外にも弊社では「カルティ ロープレ」といった営業向けのAI SaaSもご提供しておりますので、営業リストやアポ取りですとか、その他セールステック領域の会社さんとも協業できる余地があると考えております。もっと突っ込んだ話をすると、我々はウェルネス領域の店舗向けSaaSも行っておりますので、集客や物販や人材面など、弊社の顧客が求めている部分を解決できるサービスを持っている会社さんとは、ぜひ一緒に協業したり、M&Aでグループ化して、一緒に事業を大きくしていきたいですね。

新谷哲:ここからは違う質問をいたします。事前に、好きなこと・好きなものをお聞きして「漫画、サウナ、お酒、新しい技術、仕組みが社会実装される場面に立ち会うこと」とお答えいただきました。どんな漫画を読まれるんですか?

築山英治:バトル系もギャグ系も読みます。少女漫画みたいなものも合わせて、特にジャンルにはこだわらずに乱読しています。『サラリーマン金太郎』や『サンクチュアリ』みたいな、ビジネス漫画も好きですね。気分が落ち込んだときはそういう漫画を読んで、心を奮い立たせて仕事に行くことがあります。

新谷哲:ありがとうございます。次に座右の銘についてもお聞きし「適材適所。部活感。研究室感」とお答えいただきました。さすがアメフト部、大学院出身という座右の銘ですが、こちらを選ばれた理由を教えていただけますか?

築山英治:1つ目の「適材適所」は、アメフト部でのポジション変更の経験から来ています。ポジション変更前は全く活躍できなかったのですが、変更後は活躍できるようになった経験から、活躍できるフィールドやポジションは人によって違うと実感しました。弊社にもいろんなメンバーが入社してくれるのですが、すぐに活躍できるメンバーばかりではなく、しばらく苦しむ方もいます。そういった時に、本人と相談して「こういうポジションがあるんだけど、どう?」みたいに合うポジションを一緒に探します。ご縁があって集まってくれたメンバーに対して、いかに活躍の場を提供できるか、みたいなところはこだわっています。「部活感」や「研究室感」については、こちらは私自身というよりも弊社の座右の銘というかカルチャーを表す言葉ですね。私は運動会出身のエンジニアなので、部活と研究室という異なるカルチャーで育ってきた人間です。そういった教えというか、それぞれの場所で漂っていた雰囲気やルールがとても好きなので、弊社の根底にも似たようなカルチャーがあると感じています。

新谷哲:大変含蓄のあるお言葉でございました。次が最後のご質問です。全国の経営者、これから起業する方に向け、経営者として成功する秘訣をお教えください。

築山英治:まず1つは「ニーズがあることをやる」だと思います。私たちの場合は受託開発ビジネスもやっています。お客さまが課題だと感じていることや、欲しがっているものについてお客さま以上に深く考えて、それをサービスとして提案するなど「ニーズが存在することをやる」といった点を徹底すれば、事業を成功させられるのではと考えています。それに加えて「事業を支える組織のことも考える」と「自分自身が素直に真摯に生きること」も大事だと思っています。「事業を進めていて、こういうことで困っている」ということを、大きくも小さくも見せずに、ありのままに仲間と共有して、一緒に考えてもらうこと。なんなら、メンバーの方が今やっている事業にもっと詳しくて、より強く推進してもらえるかもしれません。そういった部分での素直さと真摯さを保つことを、コミュニケーションする上で気をつけています。これは成功するために必要不可欠な要素だと考えています。

新谷哲:築山英治社長、本日はどうもありがとうございました。

築山英治:ありがとうございました。

編集後記

今回は、株式会社Sapeetの築山英治社長にお話を伺いました。東大を出ていらっしゃいますので、やはり聡明なのは当たり前なんですが、淡々と地道に成果を積み重ねていける方だという印象も受けました。打ち合わせの時も終わった後も、所作や受け答えが非常にきちんとされていて、成功の秘訣でお答えいただいたように「真摯に、素直に」努力を重ねてきた経営者だと感じました。ドラッカーが「成功している社長の共通点は、ほぼない。唯一の共通点は、『ビジネスに真摯なこと』だけだ」と述べているように、そういう大事なことがきちんと体に染みついております。もう一つの秘訣である「ニーズに合っているか」も重要なことですし、よくよくビジネスのことを熟知している方だなと感じました。私も、真摯さと素直さを大切に、ニーズに合った事業でビジネスをやっていきたいなと思います。

築山英治氏
(株式会社Sapeet 代表取締役社長)

東京大学大学院工学系研究科卒。在学中に所属していた体育会アメフト部で、体重を60㎏から100㎏へと増やした際、体格の変化からオンラインでの服購入に困ったことをきっかけに、大学院にてクラウド3D着装シミュレーションの研究に従事。研究技術を軸に、株式会社Sapeetを設立。AI身体分析・3D可視化・自然言語処理等の技術をベースにあらゆる場面でのコミュニケーションの負の解決に取り組む。

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本インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集したものです。文中に登場する社名、肩書、数字情報などは、原則、収録当時のものですので、予めご了承ください。
今回は、築山英治氏(株式会社Sapeet 代表取締役社長)の経営者インタビューを取り上げました。

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