成功経営者インタビュー

株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦氏 インタビュー

本コーナーで掲載する経営者インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集しています。今回、ご紹介する経営者は、湯野川孝彦氏(株式会社すららネット 代表取締役社長)です。(2018年1月24日 2018年1月31日 配信)

今回は、「教育に変革を、子どもたちに生きる力を」という理念を掲げる、株式会社すららネット代表取締役社長の湯野川孝彦氏にお越しいただきました。湯野川孝彦社長は大阪大学基礎工学部を卒業し、東証一部上場の新規事業担当役員時代にeラーニング教材「すらら」の事業を企画・開発。2010年、すらら事業をMBOにより買収し、経営者となりました。低学力の生徒でも「わかる」「できる」「使える」という業界内でユニークなポジションをとり、急速に広まっています。2017年12月に上場を果たし、急成長する企業経営者の湯野川孝彦社長の経営者インタビューを、どうぞお聞きください。

新谷哲:今回の経営者インタビューは、私の大先輩である湯野川孝彦社長です。まずはご経歴をご紹介いたします。東証一部上場企業の新規事業担当役員時代に、eラーニング教材「すらら」の事業を企画・開発。その後、2010年にMBOにより、独立なさいました。教育格差是正を目指し、ボトムアップ層を対象に事業を展開。日本にとどまらず、スリランカ・インドネシア・インドにも進出。そして、2017年12月に上場をされております。湯野川孝彦社長、本日はよろしくお願いいたします。湯野川孝彦:よろしくお願いします。

新谷哲:最初のご質問です。ご出身は山口県とのことで、小学校・中学校時代はどのようにお過ごしでしたか?

湯野川孝彦:正確に言うと、生まれたのが高知県で、育ったのが山口県。キャッチコピーとしては「土佐生まれの長州育ち」です(笑)。

新谷哲:なるほど(笑)。

湯野川孝彦:小学校・中学校は、山口県の宇部市に住んでいました。かなり田舎のほうだったので、小学校・中学校でもクラスはほとんど同じメンバー。父親の仕事も、3分の1が宇部興産、3分の1が漁業、3分の1が農業です。近所に店は何もない、そんなところでのんびりと育ちました。

新谷哲:今の湯野川孝彦社長を見ると、勉強はできたのではないかと思いますが、成績はどうでしたか?

湯野川孝彦:中学校までは何もしなくてもトップクラスだったのですが、高校で挫折しました。

新谷哲:高校は、山口県内の高校にお進みになられたのですか?

湯野川孝彦:宇部市の宇部高校という、宇部ではトップの進学校です。

新谷哲:高校時代はどのようにお過ごしになったのですか?

湯野川孝彦:テニス部に入部し、クラブ活動をしながら普通の何の変哲もない高校生活を送りました。

新谷哲:先程、高校で挫折したとお話しされましたが、どのような挫折ですか?

湯野川孝彦:勉強面でいくと、小学校・中学校についてはほぼ何もしなくてもテストで良い点が取れました。高校は進学校でしたので、優秀な連中が集まり授業も難しくなる。勉強がだんだん分からなくなり、3年になると受験前なのに順位がかなり落ちてしまい、焦りました。

新谷哲:その後、大学は関西に進まれたのですか?

湯野川孝彦:そうですね。大阪大学です。

新谷哲:大阪大学を選ばれた理由は何かございますか?

湯野川孝彦:その頃、本が好きでSF小説を読んでいました。その中に科学の知識で問題を解決する小説があって、「理系分野でいろんなことを総合的に学べる大学が良いな」と思い選びました。

新谷哲:理系の学部ですか?

湯野川孝彦:はい、理系です。

新谷哲:大学ではどんな勉強をされましたか?

湯野川孝彦:もう今はないのですが、基礎工学科の生物工学科で、工学で生物を研究したりとか、あるいはソフトウェアで生物をシミュレーションしたりしました。

新谷哲:勉強ばかりの大学生活だったのですか?

湯野川孝彦:どちらかというと、アルバイトがメインの大学生活で、学校にはあまり行かなかったです。

新谷哲:大阪大学を出られた後、経営コンサルティング会社の日本エル・シー・エーに入社されますが、選ばれた理由というのはありますか?

湯野川孝彦:当時、理系学生が経営コンサルティング会社に就職するというのはほとんどなく、大学の担当教授からも「何でそんなところ行くの?」とかなり言われました。これは生い立ちにも関係するかもしれませんが、親父は外科医をしており、人の命を救うと人から喜ばれます。家にもそういう患者さんが訪ねてきて「うちの主人の命を救ってくれてありがとう!」と言われているのを横で見ていた、というのが後付けの理由です。でも何か直接、人に喜ばれることがしたいなというのがどこかにあり、大学の掲示板に出ている企業や、教授の紹介でトヨタ自動車やPanasonicに面接に行きましたが、最終的に就職したのは経営コンサルティング会社。これは友達の下宿でごろごろしていたら、パンフが落ちているのを見つけ「経営コンサルティング会社というのがあるのか」と思い、経営コンサルティング会社を受けに行ったという、行き当たりばったりな理由です。

新谷哲:日本エル・シー・エーが未上場の時に入られて、上場に向かって大きくなっていく姿に立ち会うと思うのですが、日本エル・シー・エー時代の思い出はございますか?

湯野川孝彦:普通に経営コンサルティングをやっていました。当時の日本エル・シー・エーは割とエリア別組織みたいな感じで、最初は福岡支店で4年~5年いました。ある夏の日に「これからはフランチャイズの経営コンサルティングだろう」と思い付きます。その月から経営幹部会議の時には「フランチャイズのコンサルティングに特化します」と1人で手を挙げてみたいなことをします。当時、グループ会社のベンチャー・リンクもフランチャイズに力を入れていたこともあって、割と上手くいきました。フランチャイズコンサルティングチームから始まって、翌年には課になって、翌年には部になって、その翌年は事業部になるので、部門と一緒に大きくなっていったという感じです。

新谷哲:では、フランチャイズ立ち上げの責任者だったのですね。

湯野川孝彦:「言い出しっぺが責任者」というやつです(笑)。

新谷哲:なるほど(笑)。その後、チームごとベンチャー・リンクに移籍をされますが、どのような経緯でしょうか?

湯野川孝彦:2002年のお正月明けに当時の経営者から「ベンチャー・リンクでフランチャイズの経営コンサルティング的な機能が必要とされたので、行ってみないか?」という話を突然いただき、「一晩考えさせてください」と言いました。何で悩んだかというと、ベンチャー・リンクと日本エル・シー・エーは、当時、グループ会社なのにそんなに仲良くなかったのです。「そこに行くのか?」と色々考えた結果「行きます」と答えました。やっぱり、自分が言い出しっぺで始めたフランチャイズの経営コンサルティング事業で、事業部のメンバーも移籍することになっていたので、「彼らを置いて自分だけ残ることはありえない」とベンチャー・リンクに移籍しました。

新谷哲:ベンチャー・リンク時代の何か思い出とかございますか?

湯野川孝彦:ベンチャー・リンクに入ると「最初は皆お手並み拝見」となります。丁稚奉公して皆から認められないといけないので、必死になりました。

新谷哲:多くのフランチャイズ事業を立ち上げたのですよね?

湯野川孝彦:「焼肉の牛角」は前から関わっていましたし、「宅配寿司の銀のさら」、最後は「女性フィットネスのカーブス」の立ち上げもしました。その頃は新規事業立ち上げ部門の部門長をしました。やっぱりこの時の経験がめちゃくちゃ今の事業に活きています。新規事業立ち上げの千本ノックを受けた感じですので、事業立ち上げのケーススタディを数多くやったことは、得難い財産です。

新谷哲:その後「すらら」という事業で起業し経営者となりますが、経緯をお教えいただけますか?

湯野川孝彦:元々は、教育畑とは関係ない仕事をしていました。初めて教育事業と接点を持ったのは、2004年です。個別指導塾のフランチャイズをベンチャー・リンクとして支援したことがありました。ベンチャー・リンクは真面目なところもあって、「フランチャイズ業態を売る以上は自分達でも経営しないと本当に良いことは分からない」といって、教育のフランチャイズに1つ加盟して、東京の大島で経営しました。ベンチャー・リンクの経営者から「新しいことをやる時は湯野川孝彦くん、君がやりなさい」と言われ、教育事業の経営が始まります。

個別指導塾の経営で、生徒募集はものすごく上手くいきました。生徒数は1年半で、当時は全国400校ぐらいあったうちの2位か3位になり、「生徒募集マーケティングは分かった」となりますが、あまり上手くいかない部分もありました。それは生徒の成績を上げるということです。特に学力の低い生徒はほとんど上がらなくて、これで果たして社会的に価値があると言えるのかということを結構悩みました。原因を考えてみると、個別指導塾の業態というのは、学生・アルバイトさんが教えるので、学習サービスの安定化というのが非常に難しいのです。いっそのこと「理想のeラーニングを作れば問題が解決できるのではないか」と当時のトップに企画を持っていったら「やってみなはれ」と予算をいただきeラーニング「すらら」を作った、という経緯です。

新谷哲:その後、「すらら」と一緒に独立し経営者となりますが、不安点はなかったのですか?

湯野川孝彦:ベンチャー・リンクが2012年に民事再生で潰れる前、「このままだと『すらら』はなくってしまうから外に出そう」と思いました。また赤字事業で会社に迷惑をかけていた、という意味合いもあります。

新谷哲:赤字事業を外に持っていく部分に、不安はあったのですか?

湯野川孝彦:僕の個人資産では全然支えきれなかったので、資金調達しないといけませんでした。独立して経営者になる前から色々なベンチャーキャピタルを周って、「どこか資金提供をしてくれるところがないか」と探しましたが、軒並み門前払いを食らいます。唯一、グロービスキャピタルパートナーズさんだけが関心を示し、ご縁ができました。結果独立し経営者となった後の2010年11月に資金調達ができて、何とか首の皮一枚繋がります。このときに資金調達ができなければもう今の「すららネット」はなかったです。

新谷哲:独立して、7年で上場していますが、上場までの経営は順調でしたか?

湯野川孝彦:概ね上手くいき、毎年1億円ずつ伸びてきます。新規事業の千本ノックをその前にやっていましたので、ある程度イメージした通りに近い形で経営できたという側面はあるのと思います。

新谷哲:すららネットは、どのような事業で経営しているかご説明いただけますか?

湯野川孝彦:子ども向けの強化学習のeラーニングというデジタル教材を提供している会社です。子ども向けというのは、小学生から高校生まで。教科は英語・数学・国語の現在3教科。ビジネスモデルとしては「BtoBtoC」と言うのでしょうか、学習塾や学校を通じて、子どもたちに教材を提供しているのが、うちの商売です。

新谷哲:小中高ということは、私立の学校とかにも入っているのですか?

湯野川孝彦: 125校ぐらいお客様がいますが、ほとんどが私立学校になりますね。

新谷哲:塾は何教室ぐらいですか?

湯野川孝彦:今は550ぐらいです。

新谷哲:すららネットは最初から、「7年後に上場を目指す」と考えていたのですか?

湯野川孝彦:そうですね。先程言った通り、最初にVC(グロービスキャピタルパートナーズ)さんから出資を得ています。VCから資金調達をするとイグジットはやっぱり上場なので、「上場できるか分からないけど、上場目指します」という感じです。

新谷哲:なるほど。素晴らしいですね。

湯野川孝彦:初年度の大赤字のときから上場を目指していましたので、当初から会社のガバナンスとか規定とかルールは上場を意識して作っていました。最初に適当に作っていたら、上場準備を始める時には相当苦労していたと思います。

新谷哲:違う質問させていただきます。好きなもので、「スマートウォッチにはまっている」とお聞きしました。スマートウォッチは、そんなに楽しいですか?

湯野川孝彦:シンガポールの空港で、トランジットの時間にスマートウォッチを見ているうちに欲しくなって買ったら、めちゃくちゃ便利です。メールとか着信があったらここで分かりますし、スケジュールもここで分かったりします。あとすごいのは毎日の歩数とかも当然記録できるのです。何もしなくてもデフォルトで目標設定を勝手にして「今日は目標達成です。おめでとう」とか褒めてくれるのですよ。最初は「何のこっちゃ」と思っていたのですが、だんだん気になるようになってきて。「待てよ、今日これから訪問先が東京駅なのだけど、会社から歩いて行ったら達成だよな」と行動が変わりましたね。うちの女性陣からは「湯野川孝彦社長は最近スマートウォッチに操られている」と言われています(笑)。

新谷哲:私の知っている湯野川孝彦社長からすると、電子機器系に操られるのは想像がつかないです(笑)。好きなことでもう1つ、「本を大量に読む」ということですが、毎月どのぐらい読まれるのですか?

湯野川孝彦:家が京都府にありまして、毎週朝一の新幹線で東京に来て、週末に帰るという、そういう生活を続けているのです。京都に戻ると、その足で図書館に行って、5冊返却して、5冊新たに借りるということで、毎月20冊以上は読んでいるような感じです。

新谷哲:すごいですね。

湯野川孝彦:本屋で買ってももちろん読みますけど、でも本屋で買うのと図書館で借りるのとは全然読み方が違うのです。図書館で借りる場合は、「面白そうだけど買うまでもない」という本を借りるので、読む本の分野がめちゃくちゃ広くなりましたね。

新谷哲:では、毎日1冊読むのですね。

湯野川孝彦:そうですね。1日にまとめて3冊読んだりもします。最近は地政学の本を読んでいます。アフリカのボコ・ハラムの、テロリストの状況の本を読んでとかです。本屋ではそんな本、絶対買いません。

新谷哲:会社のミッションとしては、「教育に変革を、子どもたちに生きる力を」。これを設定された理由は何かございますか?

湯野川孝彦:「すらら」を作った時の前後に遡ります。ベンチャー・リンク時代に東京に個別指導塾の塾を作った時、その地域ではブランドのない塾でした。そうなると、最初に来るのは、本当に偏差値30台とか、学校でオール1の低学力の生徒ばかりです。オール1の生徒の人生というのは、結構大変だと思います。学校に行ったら、下のほうを向いて先生に当ててくれるなということを祈る時間になりますし、クラブに行っても勉強ができないとパシリに使われたりします。

でも「すらら」だけで教える塾をやった時に、オール1の子でも勉強が分かるようになるというような状況が起き「これはものすごく社会的に価値があることだな」とか「我々しかできないことだ」と思い立ちます。それが、ミッションを設定した理由です。

新谷哲:素晴らしいミッションですね!では、最後の質問なのですが、全国の経営者に向けて、これから起業をされる方に向けて経営者として成功する秘訣をお教え下さい。

湯野川孝彦:秘訣と言えるか分かりませんが、自分では「新規事業の千本ノック」が良かったなと思っているので、疑似体験をたくさん積むことが経営者として成功する秘訣です。私みたいなキャリアでなくても、積めると思うのですよね。働きながら経営大学院通うことも方法の1つですし、社内のプロジェクトでも新しいことは必ずあります。そういったものを「これは自分の新規事業である」と捉えて、きちんとデータを取って仮説を立てて検証するということ。そういう意識1つで、経験は積めます。

新谷哲:私も成功経営者者になるべく、湯野川孝彦社長を真似して勉強していきたいと思います。湯野川孝彦社長、本日はどうもありがとうございました。

湯野川孝彦:どうもありがとうございました。

編集後記

湯野川孝彦社長とは、私も在籍したベンチャー・リンクで同じ常務会に所属していました。仲間でしたが、圧倒的に湯野川孝彦社長はレベルが高く、同じ仲間とは思えないぐらいご優秀でした。だから「上場もできてしまうのだ」と大変尊敬しておりますし、勉強にもなりました。意識1つで全てが変わるということなので、私も意識を変えて、湯野川孝彦社長のような素晴らしい経営者になれるように頑張りたいと思います。

湯野川 孝彦 氏
株式会社すららネット 代表取締役社長

大阪大学基礎工学部を卒業。東証一部上場の新規事業担当役員時代にeラーニング教材「すらら」の事業を企画・開発。2010年、すらら事業を MBOにより買収し独立。「すらら」は、全ての子どもたちが「わかる」「できる」「使える」というユニークなコンセプトで急速に広まり、今では690の塾、150の学校、58,000のユーザーに活用されるまでに成長。幅広い層への学習支援活動にも力を入れ、教育システムの整っていない世界の子どもたちにも質の良い教育を与えることを視野に、スリランカ、インドネシア、インドでも事業を展開中。

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本インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集したものです。文中に登場する社名、肩書、数字情報などは、原則、収録当時のものですので、予めご了承ください。
今回は、湯野川孝彦氏(株式会社すららネット 代表取締役社長)の経営者インタビューを取り上げました。

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