営業マンが目標額の100万円を売り上げても、対象とする商品以外での100万円だったとしたら、この売り上げをどう評価すべきだろうか。「売った」と「売れた」の違いを認識しておかないと、過剰な在庫を抱えてしまう事態にも直面しかねない。営業マン一人ひとりが認識しておくべき事項である。
「売った」「売れた」を識別しないと発生する問題
Aという商品を1000カートン仕入れて、各営業マンに100万円の売り上げ目標を与えて、締めたときに100万円を売り上げた営業マンがいた。しかし彼はAで100万円を売り上げたのではなく、そのなかに戦略的に推奨していないBという商品が含まれていた。この場合、彼はBを売ったといえるだろうか。
冷凍食品メーカー、東亜食品工業(本社・さいたま市)の木子吉永社長は同社の営業マンに「売った」と「売れた」の識別を徹底させている。
「“売った”というスタンスに立たなければいけません。“売った”にしなければならない商品が売れなければ在庫処分という問題が発生します。“売れた”商品には新規に仕入れなければならないという問題が発生します」
しかし、売り上げ目標の100万円を超えれば「売った」「売れた」に関係なく、往々にして100万円という数字がひとり歩きしてしまう。
「本人は目標を達成したのだからよいだろう、という気分になり、会社も本人に対して本来売るべき商品の100万円という目標は達成していないと、指摘しにくい雰囲気になってしまうものです」(木子氏)
ふたつの識別を徹底させる手段は何だろうか。木子氏は以下を説く。
何をどれだけ「売った」を精査すればこうした問題は起きないだろうという見解もあるかもしれないが、100万円の中味が多品目におよぶ場合、各品目が交錯するなどして分析しにくくなる。だから、あらかじめ何をどれだけ売るかを明確にして、各営業マンに周知徹底させておく必要がある。
営業マンの「読み能力」を向上させる方法
「売った」「売れた」を徹底させるには、営業マンの「読み能力」の向上が欠かせない。以下、木子氏が実践している「読み能力」向上法を解説しよう。
営業マンは欠品のほうが会社に責任を転嫁しやすいぶん、気分的に楽になるものだが、欠品が発生すると納品先が困ってしまい、後が怖いというリスクがともなう。このことを理解させ、欠品は本人の責任であることを自覚させなければならない。
過剰在庫になるのが怖くて少なめに発注するのが大方の心理だが、木子氏は多めに発注するように指示している。
ここで売れ残りが発生したらどうするかという問題が残るが、その解決には在庫を買ってくれる納品先をもっていることが鍵をにぎる。
たとえば100を売り切る計画だった商品が20残ってしまったとする。この場合、80で利益を確保できているので、担当者から20を半値で売ってよいかと相談されたら、「半値でもよい」と答えている。
「在庫を買っていただくには、価格を引き下げれば買っていただけるのか、それとも品質が合えば買っていただけるのか、担当者は購入のキャスティングボードを握っているのか、などを明確に把握しておかなければなりません。これらのことを明確にしておかないと、たとえ在庫を買っていただけても“売れた”になってしまいます」(木子氏)
「読み」は在庫を買ってくれる納品先を確保する際にも欠かせない。おもに担当者が変わるとき、会社の状況が変わるときに納品先の仕入れ方針が変わる。こうしたときにどのように方針が変化するかを読むのも、営業マンの能力である。
もし取り引きに変化がなければ、時々ようすを見に訪問する。この作業は釣りと同じだ。いつまでも釣り糸をたらしたままにするのではなく、食いつきを確認したり、釣れなければ場所を変えるなど条件を変えてみることが大切である。
また、「読み」の能力を高めさせるには、営業活動のつど社長に報告して、社長の意見を求めるようにさせること。さらに納品先に訪問する際に、社長に同行を求めること。
半値にすれば買ってくれる納品先を2~3社確保しておくと、安心して多めに発注できるようになる。しかし、こういう納品先との関係は属人的なものなので、ほかの営業マンが訪問しても、同じように対応していただけるかどうかはわからない。したがって、2~3社を確保している営業マンは、困っている同僚に「俺がさばいてあげるから」と恩を売ることもできるだろう。