ノーマン・カズンズ博士(1915年~1990年)は、“アメリカの良心”といわれた。35年にわたってジャーナリスト(週刊誌編集長)として健筆をふるい、それ以後はUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス分校)の医学部教授となった。
彼がなぜ“良心”と称賛されたのか。
ナチスによる生体実験の後遺症に苦しむポーランドの女性たちの補償のために、カズンズ博士は書き、動き、当時の西ドイツ政府から補償を勝ち取るまで闘った。原爆で両親を失った日本の「原爆孤児」400人余の里親になってもらえるようアメリカ国内に呼びかけ、実現した。
アメリカ・ソ連の首脳に対し、核兵器廃絶への論陣を張り、部分的核実験停止条約の可決・批准への世論を盛り上げていった。ひとりの人間として、世界の平和を、人々の幸福を希求し、そのための活動を生涯を賭して実践していったことが、彼の声価を高め尊敬を勝ち取っていったのである。
さて、カズンズ博士によると、人間の体内には神経系や免疫系、循環系などよく知られたシステムのほかに、2つの重要なシステムがあるという。「治癒系」と「信念系」である。
「治癒系」とは何か。人間は病気と戦う時、身体の総力を動員する機能をもつ。
これと共同して働くのが、精神の「信念系」だという。信念系における希望や愛情、生きようという意欲、使命感、楽観などの前向きな精神的活動が、治癒系を活性化し、人体という一大薬局を活発に働かせることになる。
かくいう博士自身も、多くの闘病の経験をもつ。10歳で肺結核となり療養所に入所した。それは1920年代のこと。結核が死病と恐れられていた頃であった。また50歳の時には膠原病となる。65歳で心筋梗塞に倒れた。そのたびごとに、「さぁ、やるぞ」とのエネルギーを沸き立たせ、希望を胸に戦いを開始し、すべての病魔に打ち勝ってきた。
「人間の脳が、考えや希望や心構えを化学物質に変える力ほど驚嘆に値するものはありません。すべては信念からはじまります」。カズンズ博士の言葉である。
そしてカズンズ博士は言葉を重ねる。
「おそらく人間には、2つのタイプがあります。問題が起こったとき、解決のために『行動すべきだ。しかしむずかしい』としり込みする人。一方、『むずかしい。しかしやるべきだ』と挑戦する人です」
私たちが「もう、だめだ」と思ったら、そのとたん「もう、だめだ」という脳の命令に従って、自身の体全体がその方向に動きはじめる。逆もまた同じであろう。その意味で人生には2つの生き方しかないのではないだろうか。「やらなかったから、できなかった」ことを証明するか、それとも「やれば、できる」ことを証明するかである。
人間の潜在的な力は大きく、希望と挑戦の意欲こそに潜在力の開花につながるのである。