経営者の再起は家族の結束に大きく左右される。再起の明暗を分けるといっても言い過ぎではない。知人への債務保証を機に雪だるま式に膨らんだ借金、自宅の競売と続く難局に、Aさんは家族の結束で立ち向かった。
家族3人で、毎朝3時に起床して弁当作り
経営者の再起は家族の結束に大きく左右される。経営破綻によって家族がバラバラになってしまうのか、それとも結束が強まるか。その違いが再起の明暗を分けるといっても言い過ぎではない。
都内に所有する自社ビルで代々印刷業を営んでいたAさんは、知人の債務保証で1億円を超える債務を背負った。社員数を削減したうえにビルの1フロアを喫茶店に改装し、現金商売もはじめた。
喫茶店はヒットして順調に日銭を稼げ、再建への道を進めるようになったが、ほどなく周辺の住宅が立ち退きに遭うなど環境が一変する。喫茶店経営は行き詰まり、高利の金も借りざるをない状況となって、借金は膨らむ一方だった。もはや万事休すか。
ここで夫人が英断を下す。喫茶店の厨房設備、配達用に使用していたライトバン、この2つを活用して移動式の弁当店をはじめようとAさんを促したのだ。以降、Aさん、夫人、さらにAさんの母親の3人で毎日午前3時に起きて、米を研ぎ、弁当を作る日々――。品質にこだわった弁当は評判を呼んで、やがて固定客をつかみ、軌道に乗りかかろうとしていた。
その矢先である。住居を兼ねていた自社ビルが競売にかけられ、ついに立ち退かざるをえなくなってしまった。家族の結束で難局を乗り切ろうとする姿に、水をかけるかのような事態である。不運はどこまでつきまとってくるのだろうか。しかし、ここでバンザイをしたら、すべてが水泡に帰してしまう。
家族の合い言葉は「がんばろう、がんばろう」
こうしたケースでは、おおむね第三者の見解がモノをいう。Aさんが相談をもちかけていた経営再建の専門コンサルタントは、金融機関やノンバンクとの交渉を代行するなど、資金繰りの解決に取り組んでいた。コンサルタントはAさんに対して、猛烈にハッパをかけた。へこたれているヒマなどないはずだ!これを機に一から出直すのだ!気持ちの切り替えが何よりも大切なんだ!と。
Aさんは発奮し、住居と営業場所の確保を急いだ。コンサルタントは引っ越しと新規開店の費用をまかなうため、立ち退き料の交渉を代行して、有利な条件を引き出した。
そして、近隣に公団マンションに住居を、同じ地域の商店街に店舗を確保できた。以来、午前中は弁当の移動販売、午後からは惣菜の店売りをはじめた。家族の合い言葉は「がんばろう、がんばろう」。Aさんは休日なしで働き続けたために体調を崩すこともあったが、やがて週1日は休めるようになったという。
薄利多売のビジネスなので、借金の返済をいっきに処理はできない。自宅と店舗の家賃、仕入れ先への支払い、子供の教育費、それらを処理したなかから毎月コツコツと返済を続けたのだった。
難局を乗り切るには家族の結束が大切だが、さらにAさん一家では、難局を乗り切ることで家族の結束が強まったという。経営破綻が一家離散を招くケースはけっして珍らしいことではない。次から次へと見舞われる不運を乗り越えたAさん一家は、なぜ結束できたのか。
Aさんの粘り強さ、夫人の明るく前向きな性格と結論付けてしまえばそれまでだが、要は難局から逃げず何が何でも再建するという強い意志をもったこと、家族の結束に対して意識的に取り組んだこと。単純な要因だが、しかしハンパでない精神力が展望を開いたのである。