「いまさら・・・」と思わずに、現実を直視して受け入れられるかどうか。経営者が再起を果たすには今一度、創業の原点に立ち返ることが求められる。当然、わかりきったことを実行しなければならない。それは10の条件に集約できる。
心からの反省、感謝の気持ちをもっているか?
独立して建築関連会社を立ち上げたAさん。総合建設業に発展させるべく事業規模を拡大していたが、十分な経営計画を立てずドンブリ勘定そのもので暴走した。ほどなく資金繰りが悪化。Aさんは対策に打って出たが、これは絶対に避けるべき手段だった。都内の1等地にある夫人の実家を抵当に、きちんとした返済計画も立てずに商工ローンから借り入れをしてしまったのだ。
実家には夫人の両親、姉妹の4人が住んでいた。しかも夫人、夫人の父、夫人の姉妹の4名を連帯保証人にした。まさに行き当たりばったりの行動である。会社はアッという間に倒産し、5億円の負債が残った。連日、夫人の実家に取り立ての電話がかかり、姉妹の勤務先には給料の差し押さえが入った。
もはや実家を手放す以外に選択肢はない。幸い、1等地だったのですぐに売却できたが、商工ローンとの交渉は難航をきわめた。損切りと連帯保証外しを要求したので、なかなか決着がつかなかったが、どうにか合意に到達できた。しかし、夫人と姉妹とは和解できず、家庭内がすっかり冷え切ってしまったという。
それだけではない。Aさんは仕事を転々を変え続け、迷走を続けているのだ。成果が出ないと「会社が悪い」「時代が悪い」「景気が悪い」などすべて責任を外に求めるという。心からの反省、感謝がうかがえないため、周囲の協力も得られない。当然、再起のメドは立っていない。
見栄や思い上がりを捨てて、奉仕の精神を養うこと
約20年にわたって、経営危機に直面した中小企業経営者の救済に取り組んでいる倒産防止互助会会長の磯崎暁氏。「経営者には五感(使命感、正義感、責任感、危機感、満足感)、七力(知力、判断力、説得力、行動力、包容力、忍耐力、気力)が必要」と説く磯崎氏は、再起できる経営者の条件を次のように整理している。
(1) | 絶対、病気をしないこと――経営者に一番大切なのは、体力(健康)である |
(2) | 誠実を最大の武器とすること――最後に人を動かすものは誠実である |
(3) | 手と足と汗をフルに使ってやり抜くこと――道路もない荒野、持っているのはわずかな食糧だけ、町へたどり着くためには、自分で考え自分で歩くしかありません |
(4) | 個人的責任を強く感じること――「自分がしなければいけない」という責任感、使命感、気概をもって事にあたろう |
(5) | 順応性、適応性を養い、新しい情報や人間関係をつかむこと――ヒトとジョウホウが企業の要である |
(6) | 名参謀(良き相談相手)をもつこと――柔軟で、素直な心を忘れずに |
(7) | 決断する能力を養うとともに、決断したら着実に実行すること――大事なときに、即断、即行できる見識と機敏な実行力が必要である |
(8) | 目標を達成するために計画期日を設定し、その達成へ必死になって取り組むこと――目的を見失わずに、ねばり強く頑張ること |
(9) | 見栄や思い上がりを捨てて、不満をなくし、奉仕の精神(見返りを期待しない)を養うこと――感謝を忘れず謙虚であること |
(10) | 「出るを制して、入るを図る」お金のやりくりの基本である――倹約して勤勉でゆとりある財政に |
どの項目も基本中の基本である。わかりきったことである。しかし“手っ取り早さ”に走らずに、わかりきったことを徹底して実行できるかどうか。いわば創業の原点に立ち返るようなものだが、行なうは難し。「いまさら・・・」と思わずに、現実を直視して受け入れられるかどうかで、次のステップに進めるのである。
「いまさら・・・」と思わずに、現実を直視して受け入れられるかどうか。経営者が再起を果たすには今一度、創業の原点に立ち返ることが求められる。当然、わかりきったことを実行しなければならない。それは10の条件に集約できる。