成功経営者インタビュー

株式会社紀文食品 代表取締役社長 堤裕氏インタビュー

本コーナーで掲載する経営者インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集しています。今回、ご紹介する経営者は、堤 裕氏(株式会社紀文食品 代表取締役社長)です。(2021年6月16日 2021年6月23日 配信)

今回は、株式会社紀文食品の堤 裕氏にお越しいただきました。

同社は2021年4月13日に東証一部へと上場をされました。84年の歴史を誇る老舗企業が、なぜ、いま上場をされたのか?上場の立役者としてご活躍された堤氏からお話を伺いました。

そして、収録の翌日には素敵な手書きのお葉書が届きました。
100年企業を目指す上で「変わるもの」と「変わらないもの」とは?お客様から愛され続ける経営のヒントが得られますので、ぜひインタビューをお聞きください。

新谷哲:今回の経営者インタビューは、株式会社紀文食品の堤裕社長です。まずは経歴のご紹介です。1956年7月静岡県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、株式会社紀文(現・株式会社紀文食品)にご入社されます。その後、取締役総務本部長、常務取締役マーケティング室長、取締役兼専務執行役員秘書室長などを歴任後、2017年に代表取締役社長・COOへご就任。2021年4月には、東京証券取引所第一部に株式上場をされています。本日はよろしくお願いします。

堤裕:よろしくお願い致します。

新谷哲:ご出身は静岡県とのことですが、小学校時代・中学校時代はどのようにお過ごしでしたか?

堤裕:父が電力会社に勤めていまして、本社のある名古屋と生まれの静岡を行ったり来たりしていました。小学校時代はあまり体が強くなく、スポーツをして遊ぶよりも鉄道を見ることが大好きでした。当時を思い出すと、よくもあんなに好きだったなと思います。

新谷哲:静岡ですと、大井川鐵道のSLですか?

堤裕:静岡県湖西市に住んでいたので、二俣線(現・天浜線)を走る蒸気機関車をよく見ていました。

新谷哲:鉄道ファンの方々にとっては、とても羨ましいご出身地ですね!中学校・高校時代はどのようにお過ごしでしたか?

堤裕:愛知県にある、私立の中高一貫校へと入学をしましたが、特に何もしていませんでした(笑)

新谷哲:高校卒業後は慶応義塾大学経済学部に進学されています。相当、頭がよろしかったのではないですか?

堤裕:1年浪人をして、拾っていただきました。

新谷哲:慶応義塾大学を選ばれた理由はございますか?

堤裕:早く親から巣立ちたかったので、名古屋以外の大学をいくつか受験をしていました。そして、国立大学、慶応義塾大学などに合格をしました。サラリーマン家庭で裕福な方ではありませんので、当初は国立を志願していましたが、慶応義塾大学に進学することを決めました。

新谷哲:本日は慶応義塾大学の直ぐ近くにあるWizBiz株式会社にご来社頂き、インタビュー収録をしています。道中、大学時代のことを思い出されたのでは?

堤裕:ここに来るまでの間に、ぐるっと歩いてきたのですが、様変わりしていました。40年前は沢山あった、雀荘や喫茶店が全部なくなっていました。当時は、友人と喫茶店で待ち合わせ、雀荘で麻雀ばかりやっていました。現在では皆さんスマホを持たれていますので、待ち合わせするのに喫茶店も必要が無くなってしまったのでしょうね。

新谷哲:最近では、昔ながらの喫茶店も姿を消してきました。社長仲間と麻雀をしようと思っても、雀荘を探すので一苦労です。大学卒業後は、株式会社紀文(現 株式会社紀文食品)にご入社されます。こちらを選ばれた理由はございますか?

堤裕:大学4年間、大手百貨店の外商包装センターで、お歳暮・お中元の包装をするアルバイトをやっていました。当時は、お歳暮・お中元を贈り合うのが当たり前の世の中でしたし、紀文は、全国の百貨店に250店舗ほどの店舗を構えていたこともあり、とても出荷量が多くありました。名古屋ではあまり知名度は高くありませんでしたが、東京では「この会社って大きいのだな」と感じていました。そして、就職先を考え始めた時期に、所属ゼミの先生ご自身がコンサルタントをやっていた紀文をご紹介頂いたこともあり入社を決めました。

新谷哲:入社当初の思い出はございますか?

堤裕:名古屋の中学・高校出身だったこともあり、最初の勤務地は名古屋市にある大手百貨店の売り場に配属をされました。もともと百貨店でアルバイトをしていたので、抵抗はありませんでしたが、消費者の方々の食事は和食が多く、売り場に並べる商品の量は今とは違いました。なんと、朝8時から22時までの12時間、おでんを並べっぱなしだったのです。現在のごぼう巻は一本160円ですが、当時は100円。それでも日商は60万円~100万円ほどになりました。今思えば、値段もそれほど変わらない高価なものを扱わせていただき、「いいものを売る」という満足感とプライドのようなものを養わせていただいたと思っています。

新谷哲:すごいですね!当時の日商は、現在では想像がつかないですね!その後、順調にご出世されていますが、要因はございますか?

堤裕:経歴には役員になってからのものしか書いてありませんが、その間があるのです。40年間のサラリーマン生活の中では、波があり、高い時もあれば低い時もありました。様々な波を経験してきて、周期に合った仕事の仕方が重要だと感じました。それを間違えてしまい、上がり調子なのに何もしなかったり、下り調子なのに無理をしてしまったりして、つらい思いをしたこともありました。今思い返すと、それも必要な経験であり、意味があったと感じています。

新谷哲:上り調子のときと、下り調子のときの「仕事の仕方」には、どのような違いがありましたか?

堤裕:例えば上り調子のとき、若いころは自分の力では無かったとしても、仕事がうまくいくと天狗になってしまいます。ですが、下り調子に傾き始めると、その仕事の仕方ではマイナスになってしまいます。上手くいっているときは良いのですが、そうでないときはストレスが溜まる仕事の仕方をしていたなと感じます。

新谷哲:つらいときに仕事を辞めてしまいたいと思ったことはございませんか?

堤裕:上手くいかないもどかしさはありましたが、仕事を辞めてもその辛さがなくなるわけでは無いと思います。

新谷哲:なるほど。2017年には代表取締役社長COOにご就任されました。任命されたときはどのようなお気持ちでしたか?

堤裕:「なぜ、今上場をされるのですか?」というご質問を多くお受けしているのですが、その答えにも繋がります。当社は現在、創業から83年が経ち84期目に突入しています。3年前に80周年記念事業を実施したとき、全社員に「20年後の100年目に、当グループはどのような姿になっていたいか?」と意見を募りました。すると「グローバルな仕事をしたい」「もっと仕事の幅を広げたい」「生き生きと働きたい」など、とても前向きな意見が多く出てきました。しかし、ファミリーカンパニーですと目線が内向きになりがちで、資金的にも限りがあり、スピード感をもって事業を展開していきづらいという特徴がございます。100年目に、皆が思い描くグループへと成長するようビジネスを回していくためには、上場することが一つの選択肢でした。このような経緯から、専務だった私は「自分がこの会社でお世話になっている間に上場を果たしたい」という気持を持つようになりました。そんなとき社長に就かせていただく機会を頂いたのです。

新谷哲:なるほど。先んじて上場を目指されていたからこそ、社長というお仕事が回ってきたのでしょうか?

堤裕:当社が目指すべき方向性は明確であり、社長は誰がやってもいいのです。社員が幸せであることが一番大事であり、やりたい仕事ができる環境を作っていくことが上にいるものの務めです。そのように強く思ったとき、ご指名をいただきました。

新谷哲:上場までにどのようなご苦労がございましたか?

堤裕:2点、特に大事だと感じたことがあります。1つ目は、業績です。当然のことですが、計画と実績の乖離が出てしまうと上手くは行きません。2つ目は ガバナンスです。80年間の歴史があるファミリー企業なので、これまでに培われてきた仕事の仕方、社内の体制がありました。それらを上場企業として求められるあるべき姿への指示行動に合わせていけるよう、変革していく必要がありました。

新谷哲:ありがとうございます。皆様もよくご存知でいらっしゃると思いますが、株式会社紀文食品の事業内容をお教えいただけますか?

堤裕:弊社は、83年の歴史をもつ紀文グループの親会社です。紀文食品は魚肉練り製品を中心として、総菜、麺状商品、お正月商品をメインに、国内で製造販売を実施しています。子会社を含めると、国内には北海道から沖縄、海外では世界9か所に現地法人、提携先を設けビジネスを行うとともに、関連事業としてロジスティクス事業も実施をしています。

新谷哲:このインタビューをご覧の皆様もよく食べてらっしゃると思います。

堤裕:ありがとうございます。

新谷哲:ここからは違う質問をさせていただきます。好きなもの、好きなことをお聞きして「美味しいもの・楽しいこと」とお答えいただきました。やはり、かまぼこもお好きで良く食べられるのですか?

堤裕:はい。美味しいものを食べているときや、人が美味しそうに食べているところを見ているとき、幸せを感じます。人間だけでなく、犬や猫など生き物すべてに共通したことではないでしょうか?その時だけは、いろんなことを忘れられる。だからおいしいものは大好きです。

新谷哲:座右の銘もお聞きして「感謝 即 実行」とお答えいただきました。この言葉は社是とのことですが、こちらを選ばれた理由はございますか?

堤裕:これまでのサラリーマン人生で共感するものがあり、好きな言葉としてあげさせていただきました。「感謝 即 実行」が紀文の社是になった背景には、創業者があるお世話になった方にお礼を伝えようと思っていたのですが「まあ、今度会ったときにでも」と先送りにしたところ、亡くなってしまい感謝の一言を伝えることができなかったというエピソードがあります。そのような出来事から、感謝の気持ちはすぐに表現をしよう、という企業風土が根付きました。先ほど、サラリーマン人生の中でも波があり、高い時もあれば低い時もあったというお話をしました。自分の実力だと驕ったとき、良い波は引いてしまいます。上り調子の時にも天狗にはならず、上らせていただけることに感謝をする。そして、感じたら表現をする。「ありがとう」という感謝だけではなく、後悔のないようできるときにきちんと形にして伝えていけるように心がけています。

新谷哲:次が最後のご質問です。全国の経営者、これから起業する方に向け、経営者として成功する秘訣をお教えください。

堤裕:今が成功しているかわかりませんので口幅ったいですが、大切にしていることをお話したいと思います。座右の銘にあげさせていただいた「感謝 即 実行」にも繋がりますが、成功する秘訣は「もらったものはちゃんと返す、返ってきたらもらう」です。この中で重要なのは、もらうことばかり考えるのではなく、まずは自分からアクションを起こすことです。押しては返す波のように、この繰り返しでコミュニケーションは発展していくのだと感じます。商品も、おいしいものを提供すれば必ず買っていただけます。買っていただけないということは、お客様の満足いくものを出せていないのです。まずは試行錯誤し、お客様の喜ぶものを提供すること。それができれば、おのずと結果として返ってきます。このことを肝に収め、自分を叱咤激励しています。

新谷哲:大変勉強になるお話でした。堤裕社長、本日はありがとうございました。

堤裕:ありがとうございました。

編集後記

今回は堤裕社長でした。株式会社紀文食品で上場の立役者としてご活躍された社長様です。特に感動したのは社是である「感謝 即 実行」を座右の銘に挙げられた点です。堤社長を見ていると、とても謙虚ですし、社是が徹底的に体に入り込み、実行に移されていることが伝わってきます。だからこそ社長にまで出世し、同社を上場へ導くことができたのだと感じました。それを社員にも徹底されているからこそ、次世代のリーダーを輩出し続け84年と存続する企業であれる理由なのでしょう。謙虚でありながら、素晴らしい才覚を持たれた社長様でした。ぜひ皆様も経営理念を徹底し、共に成功社長を目指していきましょう!

堤 裕氏
株式会社紀文食品 代表取締役社長

静岡県生まれ。慶応義塾大学経済学部へと進学し、在学中は大手百貨店にてアルバイトを4年間経験されました。1980年に卒業後、水産練り製品類、惣菜類、水産珍味類の製造販売と仕入れ販売を行う、株式会社紀文(現 株式会社紀文食品)へご入社。2017年12月に代表取締役社長・COOへとご就任されました。そして、2021年4月には東証一部へと上場をされ、立役者として活躍されました。84年の歴史を誇る老舗企業である紀文食品は「食を通じておいしさと楽しさを提供し、お客さまの明るく健康な生活」に貢献するというビジョンを掲げており、その実現に向け日々陣頭指揮を執っています。

※本インタビューへの出演をご希望の方はこちらよりご応募ください。

本インタビューは、Podcast「社長に聞く!in WizBiz」で配信中の経営者インタビューを編集したものです。文中に登場する社名、肩書、数字情報などは、原則、収録当時のものですので、予めご了承ください。
今回は、堤 裕氏(株式会社紀文食品 代表取締役社長)の経営者インタビューを取り上げました。

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