「挑戦」と「応戦」から新しい文明が生まれる

トインビー博士は、有名な著書「歴史の研究」のなかで、さまざまな文明が生まれ、成長し、衰退するプロセスを説明した論を進めている。そのもっとも有名なものは、新文明がなぜ生まれるかを説いた「挑戦」と「応戦」の理論である。

外部からの「挑戦」と内からの「応戦」

イギリスの歴史家、アーノルド博士は「文明を興すものは何か」を探った結果、それは人種でも恵まれた環境でもなく、かえって劣悪な気候の変化や外の文明からの圧力、刺激、困難に元気よく立ち向かうなかで生まれてくるものだと結論づけた。それを外部からの「挑戦(チャレンジ)」と内からの「応戦(レスポンス)」という用語で説明したのである。

たとえば古代エジプト文明の発展は気候の変化がもたらしたという。人々にとって住み心地のよかった地域が次第に乾燥化するという自然の「挑戦」に対して、ナイル流域にて農耕作業をはじめるという「応戦」で克服し、古代エジプト人は巨大ピラミッドの文明を生んだのだ。

いうまでもなく「挑戦」とは自然条件にかぎったものではなく、人間自身が生み出した環境からも受けるとした。産業革命にはじまった大量生産・大量消費の文明が窮してきた。現在に置き換えてみれば二酸化炭素などの排出による、地球温暖化の問題もその延長上にあるといえるだろう。逆にいえば、さまざまな環境の「挑戦」に対し、敢然と「応戦」していくことで、新しい文明、文化が創出されていくのである。

もちろん「挑戦」と「応戦」は、マクロ的視野だけにあるものではない。企業経営や私たち自身の生き方にも同様のことがいえる。

「応戦」の集積で、息を吹き返す

1990年代初頭にバブルが崩壊した後、国内の金型業界は厳しい不況にあえいでいた。90年には5400億円もあった生産高が、93年には4250億円に減少。このまま衰退の一途かと思われていた。しかしその後劇的な変化を見せ、金型業界は右肩上がりの成長を遂げた。発注先のメーカーからたたかれまくった単価切り詰めのなかでである。

それはバブル崩壊、発注先が迫った単価切り詰めという厳しい社会環境のなかで、金型メーカー各社が類のない経営努力を行なった結果である。ある企業は、従来はひとつの機械に16個の金型をつけていたカセットテープ生産を、1個の金型のほうがコストダウンにつながると気づき、一斉に生産方法を変えてしまった。

このような現場レベルでの徹底した「応戦」が集積し、業界全体の息が吹き返したのである。これなどは「挑戦」と「応戦」のひとつの例といえよう。

「人にも、企業にも何度かチャンスがある。それに挑戦するかしないかの違いが、女神と握手できるかできないかの分かれ目です」

かつてある企業家がいった言葉だが、どんな難局、どんな「挑戦」があろうとも、それをチャンスと思えるか。全精力をもって「応戦」できるか。企業も、人間もまさにそこが問われるのである。

関連記事