トリの羽、ライオンの勇気を持て!

「ウサギの耳、トンボの目、アリの足を持て!」という有名な譬えがある。JR西日本の幹部社員が先輩より柔軟さと企画力を鍛えるために耳にたこができるぐらいに教え込まれ、それをまた自分の部下に教えているという言葉だ。

「ウサギの耳」とは、素直に人の話を聞くこと、素直に話を聞く姿勢でいることの大切さを教えてくれている。「トンボの目」とは、広い視野を持ち、さまざまな角度から物事を見ること。物事は見方や、見る角度によって全然違うように見えるというわけだ。

「アリの足」とは、自らの足で現場に行くこと。ただやるだけでは意味がなくやったことが生かされない。そのために、現場のことをよく知らなければならないということだ。どのような職種であろうと、このことを実践していくことにより柔軟さと企画発想力が磨かれていくという。

現場を知るということについて、稀代の歴史作家・司馬遼太郎の小説作法が参考になるかもしれない。彼自身が執筆の細部を記した『私の小説作法』のなかで、「(私の歴史小説は)高い視点からその人物と人生を鳥瞰したようなものだ」と書き、また別の場では「たとえていえばデパートの屋上から下界を覗き込んでいるようなものだ」と語っている。

司馬氏が作品に扱った歴史上の人物はいうまでもなく多い。その1人ひとりについて、現代というデパートの屋上から、当時の人々の生き様を鳥瞰し、それを解釈して今の世に問うてきたわけだ。それはつねに企業全体を鳥瞰・掌握し、適切に判断・指示をする企業経営者の視点に似てはいないか。

大手銀行の頭取は、できる部下、頼れる部下をひと言で表わすとという質問に、「社長の目線で現場100回を貫く人だ」と答えている。つねに企業全体の責任を担う経営者のモノの見方で、いまある状況を鳥瞰(あえて言えば「トリの羽を持て」ということになるのだろうか)し、そのうえで労を惜しまず現場に出向いていく。経営者の目線を持ち少なからず心を一とするその部下が現場で下す判断に迷いはないはずだ。

最後にもうひとつ付け加えたい。かのフランスのナポレオンはこういっている。
「誰でも元気よく、敏活に行動せよ。決して『しかし』『あるいは』『もし』『何となれば』というような曖昧な言葉にわずらわされるな」

敗者は、座して困難や不可能の理由を、際限なく並べ立てる。勝者は、恐れなく勇敢に行動する。そこに、勝敗の決め手があるというのだ。 ウサギの目、トンボの目、アリの足、トリの羽を持とうとも、最後の最後、それを実践し、新しい何かを生み出すためには「ライオンの勇気」が必要ということである。

自分には何が欠けているか。動物の干支を記す年賀状などを書きながら、冷静に見つめなおすことも一興ではないだろうか。

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