タイガー・ウッズから学ぶ 本質を見抜く先見性(2)

本コーナーでは、2021年10月に出版された、吉田洋一郎氏の著書「PGAツアー超一流たちのティーチング革命」から、会社経営やビジネスシーンでも応用できるよう、著者自身が一部抜粋・再構成した記事をお届けします。

前号に続き、復活が期待されるタイガー・ウッズのゴルフの取り組みを拙著PGAツアー超一流たちのティーチング革命」 から一部抜粋し、再構成した記事としてご紹介します。

一流選手の思考はゴルフだけではなく、日常生活やビジネスシーンにも応用できると思いますので、参考にしていただきたいと思います。

失敗から本物を見極める目を養う

 タイガー・ウッズの場合、記録だけで言えば自分より優れているのはジャック・ニクラウスしかいません。自分よりも優れたプレーヤーにしか意見を求めないとすれば、タイガーはニクラウスの助言しか聞けないということになります。しかしタイガーは違います。自分にとって何が必要なのか、何が正しいのか、一番メリットがあるのは何かという基準で人からの意見を聞き、判断し、活用するのがタイガー流なのです。

 ソフトバンクグループの孫正義さんは、投資事業において多くの会社を買収することで会社を成長させていますが、今後の成長の可能性を見極めて投資先をピックアップして育てています。いわゆる先見の明ということですが、こうした本物を見極めるセンスを持つのが本当の一流です。ただ、その背景にはいくつもの失敗もあります。

 ビジネスにしてもゴルフにしても失敗の経験の中から良い面と悪い面が浮き彫りになってきます。タイガーもスイングを変えるプロセスにおいて全部が成功ではなかったと思います。最終的に結果は出していますが、それはスイングを変えていくプロセスでスイング構築のプロセスにおける体の反応や、スイングの修得過程がわかるようになったことで、再度スイングを変えるときにその経験が活かされていくのです。このプロセスをしっかり検証し、そこから学ぶことがとても大事になるのです。

 仮に、プロであっても、不調から復活しようとタイガーのスイングを真似てもうまくいかないでしょう。スイングを真似るのではなく、タイガーがそのスイングに至ったプロセスを真似したり、新しいスイングを構築するプロセスを学ぶべきなのです。上達する仕組みではなく、スイングそのものに目がいってしまい、表面的に見えるものだけを真似してもうまくいきません。真似するべきは仕組みということです。タイガーは、コーチを付けることでこの仕組みをつくり上げていきました。

身につけたばかりのスキルはすぐに役立たない

 上達するための仕組み、改革するための仕組みをいかにつくり上げていくかが大事なのですが、その前提として、必要なのは自分はどうありたいかというコンセプトをしっかり持つことです。そして、どのようなプロセスでスイング動作を体になじませていくかをイメージし、いつまでに試合で使えるようになるか計画を立てます。なぜならスイングを変えたからといって、すぐに活用できるものではないからです。

 タイガーがコモと組んだ当初、グリーン周りのアプローチショットでトップし、グリーンから大きくオーバーするなど、全盛期のタイガーのプレーを知る人間には信じられないミスが散見される状態でした。ただ、これは新しいことをトライするときに必ず出るエラーです。

 私もインドアでレッスンをする際、受講者には「すぐにコースで試しても絶対うまくいかないから、ラウンドに行くなら期待しないで気楽にプレーしたほうがいいですよ」と伝えます。ゴルフの技術習得には、インドアと練習場とコースという3つのステージがあります。試合に出る人なら、プレッシャーのかかる試合という4つめのステージもあります。

 経験上言えることですが、技術習得のプロセスにおいて、インドアで100%できることも、練習場では50%しかできません。さらにコースでは25%、試合ではコース練習の半分しかできません。インドアでできたことが試合では12、13%ぐらいしかできないということであり、インドアでできないことはコースでは絶対できないということになります。

 これは、インドアで練習したことを、コースに出て、頭で考えながらプレーしようと思うからです。技術的なことをあれこれ考えながらクラブを振っても、そのイメージ通りにはなりません。考えることとスイングがリンクせず、別々の動きになってしまうからです。

 タイガーが忍耐の時期を乗り越えられたのは、このことを理解していたからでしょう。

スイングを練習場で修正してもすぐに100%にはならず、コースでは上手くできない状況にあるとわかっているから我慢ができるのです。

 タイガーはスイングを変えて思い通りにいかなくても、最初は気にせず、試合ごとにアジャストしながらピークをどこに持っていくかを考えてプレーするため、淡々としていられたのです。

 これは目標管理をするうえで非常に大事な考え方です。身につけたばかりのスキルを使えば結果がすぐ出ると思うのはあまりにも安易な考え方です。身につけたスキルは「少しずつ自分にアジャストさせながら目標を追う」というのが正しい方向性です。英会話のフレーズを覚えてもすぐにネイティブの人と会話ができないのと一緒です。

 覚えたことを実戦の場で使おうと思ったら、実際に使えるようになるピークを設定し、そこに向けて習熟させていくことが大事です。

 目の前の試合で結果を出すことしか考えない選手は、自分のプレーについてデータの蓄積をしません。蓄積をしないから、ミスしがちな場面や自分に足りないスキルなどに目が行きません。それをいくら繰り返しても、大きい試合にピークを合わせられないからあえなく敗戦することになります。

 目の前にあることしか見えなくなると、長いスパンで立ち止まりながら課題を修正することができず、ピーク調整に失敗して、大一番の前にいきなり調子を崩すことになりがちです。すぐに結果を出そうとは考えず、プロセスを踏みながら目標達成することが大事ということです。

吉田洋一郎 (よしだひろいちろう)

吉田洋一郎

PGAツアー、海外ゴルフ理論に精通するゴルフスイングコンサルタント
2019年ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。
CSゴルフ専門チャンネル ゴルフネットワーク PGAツアー解説者

北海道出身。世界4大メジャータイトル21勝に貢献した世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、世界一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。また、毎年数回、アメリカ、ヨーロッパに渡り、ゴルフに関する心技体の最新理論の情報収集と研究活動を行っている。
欧米の一流インストラクター約80名に直接学び、世界中のスイング理論を研究している。海外ティーチングの講習会、セミナーなどで得た資格は20以上にのぼる。

吉田洋一郎オフィシャルサイト  http://hiroichiro.com/

YouTubeチャンネル 「The Single Players TV」https://www.youtube.com/channel/UCOnC2ubncOUY5CHpXKQXi-w

また、海外メジャーを含めた米PGAツアー、ヨーロピアンツアーに足を運び、PGAツアー選手の現状やツアーのティーチングについて情報収集を行っている。

書籍紹介

【タイトル】PGAツアー超一流たちのティーチング革命

【出版社】実務教育出版

【発売日】2021年10月29日

本書では、PGAツアーで活躍する4人のスター選手を取り上げ、結果を出し続けるために必 要な彼らの思考や取り組みを学び、自己変革を実現する内容となっています。 ゴルファーのスコアアップはもちろん、ビジネスパーソンの仕事への応用や、現在の環境か らステップアップするために自分を変えたいと思っている方にも有益な内容となっています。 欧米の有名コーチの指導哲学やコミュニケーションスキルをご紹介し、部下を指導するシー ンや、人間関係の改善にも役立つ内容となっています。 本書では「Good」な選手が、「Great」な選手へと飛躍した理由を技術的要因と戦略的要 因から分析し、弱肉強食の世界で結果を出し続けるための成長戦略を明らかにします。 著者が8年間アメリカで独自取材をした内容を基に、PGAツアー最多勝利記録保持者のタイ ガー・ウッズ、50歳でメジャーを制したフィル・ミケルソン、20代で4つのメジャータイ トルを獲得した「メジャーハンター」ブルックス・ケプカ、科学的な取り組みでゴルフ界の 常識を破壊したブライソン・デシャンボーの取り組みを紹介します

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