タイガー・ウッズから学ぶ 本質を見抜く先見性

本コーナーでは、2021年10月に出版された、吉田洋一郎氏の著書「PGAツアー超一流たちのティーチング革命」から、会社経営やビジネスシーンでも応用できるよう、著者自身が一部抜粋・再構成した記事をお届けします。

再起不能から遂げるタイガー・ウッズの取り組み

タイガー・ウッズはデビュー以来、300ヤードを超えるドライバーショットを武器に、ゴルフ界の常識を破壊し、ゴルフをそれまでとは全く違うスポーツに変えてきました。

 デビュー当時は出場するトーナメントを総なめにするほどの破竹の勢いで勝ち星を積み重ね、世界ランキング1位、PGAツアーの最年少賞金王にも輝きました。華々しい活躍はその後勢いを増し、32歳になった2008年にトリプル・グランドスラム(4大メジャーをそれぞれ3回制覇すること)を達成し、彼のゴルフ人生は頂点を極めました。

 2009年の不倫スキャンダルを境に激しい浮き沈みを経験したものの、2018年には長期低迷を脱し、世界のトッププレーヤーとして返り咲きます。2019年にはマスターズで5度目の優勝。2008年大会以来ですから、11年ぶりの快挙でした。この年は日本初開催となったPGAツアー、ZOZOチャンピオンシップでも優勝しています。

そんな復活劇を演じたタイガー・ウッズですが、2021年2月に乗用車で単独事故を起こしてしまい、右足骨折などの重傷を負いました。復帰を目指してリハビリを続け、昨年12月に行われたメジャーチャンピオンが親子で出場する非公式競技「PNC選手権」においてタイガー・ウッズは息子のチャーリー君と出場してトータル25アンダーで2打差の2位となり、順調に復活への道のりを歩んでいることがわかりました。

タイガー・ウッズはこれまで度重なるケガで再起不能と言われながらも復活を遂げてきました。今回は復活が期待されるタイガー・ウッズのゴルフの取り組みを拙著PGAツアー超一流たちのティーチング革命」から一部抜粋し、再構成した記事としてご紹介します。一流選手の思考はゴルフだけではなく、日常生活やビジネスシーンにも応用できると思いますので、参考にしていただきたいと思います。

復活のためにバイオメカニクスを取り入れた

2015年にタイガー・ウッズの前コーチ、クリス・コモがタイガーにバイオメカニクスによる指導をはじめたとき、懐疑的に見る人が多くいました。実際、当時コモはコーチの世界では無名に近かったので、科学的見地から行う指導は信用されていなかったようです。

 しかし、タイガーの復活によってバイオメカニクスの有効性が実証されてからは、コモの存在が大きくクローズアップされてきました。

 バイオメカニクスは陸上や野球などスポーツの世界では早いうちから導入が進んでいました。「スポーツバイオメカニクス」という分野があり、世界的な学会が毎年行われているほどです。しかし、ゴルフで採用されたのはいまから10年ほど前と他のスポーツからは後れを取っています。

ゴルフがそもそも伝統のあるスポーツで保守的なことも関係しているのでしょう。特に実績と経験のあるツアープロやコーチなどは新しい理論に少し距離を置くようなところがあります。

 タイガーは先見の明をもって新しい取り組みを行い、これまでのゴルフ界の常識を覆してきました。タイガーが鮮烈なデビューを飾った当時、彼はフィジカルトレーニングを行っていたため、バランスの良い体格をしていました。その体から繰り出されるプレーがゴルフ界をパワーゲームに変えました。他の一流プレーヤーがトレーニングをはじめたのはこれが契機となっています。それまでは身体感覚がおかしくなる、ゴルフは技のスポーツだと言われていたためフィジカルトレーニングに積極的に向き合う人が少なかったのです。

 ゴルフ界では最初は見向きもされなかったバイオメカニクスですが、タイガーが導入してからというもの、徐々にスイングに取り入れるプレーヤーも増えていきました。タイガーの復活がバイオメカニクスの認知度向上に大きく貢献したわけですが、それ以前にヤン・フー・クォン教授(テキサス女子大学)とコモが共同でPGAツアーの選手100人余のデータを検証し、学術的なエビデンスを導き出したことが大きいと思います。この点を考えると、無名だったこの2人がその後のゴルフ界を変えたとも言えるでしょう。

人の意見を聞く謙虚さが自分を変えることに繋がった!

そしてその起点となったタイガーの決断には、先見の明があったということです。無名で、しかも聞いたこともない理論には拒絶反応を示しこそすれ、興味を持つなど通常ならあり得ないでしょう。タイガーが無名のコーチであるコモと組むことに、日本のゴルフ関係者で理解を示した人を聞いたことがありません。

タイガーは自分に必要と思えることなら、どんな些細なことでも耳を傾けたのでしょう。そして本当に役立ちそうと思えば、相手が誰であろうとじっくりと話を聞き、ロジカルに選択、決断する力量が備わっているのだと思います。

 タイガーほどの実績があるプレーヤーになると、なかなか自分を変えることが難しいはずですが、そこを謙虚に人の意見に耳を傾けて適切に判断することはなかなかできないことです。

成功体験がある人ほど自分を正当化し、考え方を変えられないものです。そうなると、人の意見を聞く謙虚さが失われ、結果的に望む結果を得ることができなくなる。タイガーには人の意見を聞く謙虚さがあるから自分を変えることができました。ここが長くトッププロを務められる秘訣なのかもしれません。

成功体験を潔く捨てることがイノベーションの第一歩

自分の努力だけで成り上がってきたと考える人、なまじ成功体験がある人、才能に甘んじて不勉強な人は素直さや謙虚さが足りない傾向にあります。これはゴルフだけではなく、ビジネスの世界でもよく聞く話です。

成功体験を潔く捨て、チャレンジャーとして新しいことに向かって自分を変えなければ、イノベーションは起きません。

 いまやバイオメカニクスによるゴルフ理論は標準として認識されていますが、先見の明があったタイガーが起こしたイノベーションと言ってもいいかもしれません。

 全盛期の王者の時代でも人の話はよく聞き、常に自らのスキルをアップデートする準備を怠らなかったことに、彼のプロとしての凄みを感じます。

吉田洋一郎 (よしだひろいちろう)

吉田洋一郎

PGAツアー、海外ゴルフ理論に精通するゴルフスイングコンサルタント
2019年ゴルフダイジェスト・レッスン・オブ・ザ・イヤー受賞。
CSゴルフ専門チャンネル ゴルフネットワーク PGAツアー解説者

北海道出身。世界4大メジャータイトル21勝に貢献した世界No.1のゴルフコーチ、デビッド・レッドベター氏を2度にわたって日本へ招聘し、世界一流のレッスンメソッドを直接学ぶ。また、毎年数回、アメリカ、ヨーロッパに渡り、ゴルフに関する心技体の最新理論の情報収集と研究活動を行っている。
欧米の一流インストラクター約80名に直接学び、世界中のスイング理論を研究している。海外ティーチングの講習会、セミナーなどで得た資格は20以上にのぼる。

吉田洋一郎オフィシャルサイト  http://hiroichiro.com/

YouTubeチャンネル 「The Single Players TV」https://www.youtube.com/channel/UCOnC2ubncOUY5CHpXKQXi-w

また、海外メジャーを含めた米PGAツアー、ヨーロピアンツアーに足を運び、PGAツアー選手の現状やツアーのティーチングについて情報収集を行っている。

書籍紹介

【タイトル】PGAツアー超一流たちのティーチング革命

【出版社】実務教育出版

【発売日】2021年10月29日

本書では、PGAツアーで活躍する4人のスター選手を取り上げ、結果を出し続けるために必 要な彼らの思考や取り組みを学び、自己変革を実現する内容となっています。 ゴルファーのスコアアップはもちろん、ビジネスパーソンの仕事への応用や、現在の環境か らステップアップするために自分を変えたいと思っている方にも有益な内容となっています。 欧米の有名コーチの指導哲学やコミュニケーションスキルをご紹介し、部下を指導するシー ンや、人間関係の改善にも役立つ内容となっています。 本書では「Good」な選手が、「Great」な選手へと飛躍した理由を技術的要因と戦略的要 因から分析し、弱肉強食の世界で結果を出し続けるための成長戦略を明らかにします。 著者が8年間アメリカで独自取材をした内容を基に、PGAツアー最多勝利記録保持者のタイ ガー・ウッズ、50歳でメジャーを制したフィル・ミケルソン、20代で4つのメジャータイ トルを獲得した「メジャーハンター」ブルックス・ケプカ、科学的な取り組みでゴルフ界の 常識を破壊したブライソン・デシャンボーの取り組みを紹介します

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