成功した経営者はおおむね独自の時間論を有している。超多忙な日常をプラスへと導けたからこそ、成果を勝ち取れたわけだ。本田宗一郎も、時間に関して多くの発言を遺している。肉声に触れておこう!
時間は平等に与えられた資源
運の強い人にも弱い人にも、あるいは努力する人にも自堕落な人にも、平等に与えられている条件は「時間」である。ありきたりのテーマだが、時間を有効に活用できるかどうか。 タイム・イズ・マネーともいわれるように、時間活用の巧拙が人生を大きく左右する。時間の活用ノウハウに関しては幾多の書籍やツールがあるが、先人の卓見に触れることも収穫になるだろう。
成功したと評価される経営者は、おおむね時間を経営資源として大切に扱っている。人の数倍も多忙な身となれば、時間を大切にせざるえない。本田宗一郎氏も、ことのほか時間を大切にしたひとりだった。時間についての発言も多い。
「世の中、時間がすべてなんですね。一日二十四時間、世界中、どこのどんな人間にも平等に与えられているものは時間しかない。この時間をどう使うかによって、その人の人生が決まってくる……」
「商売にしても時間の要素を必要としない契約はないし、どんな約束でも時間をはずしたらその場で価値がなくなってしまう。とくに品物の納期、金銭の支払いなんかは、たとえ一日でも約束の時期を遅らせたら、相手を困らせ迷惑をかけることになる。信用がゼロになっても仕方のないことなんですね」
時間ほど値段の高いものはない
ともに『本田宗一郎 潰れてたまるか!』(坂崎義之著・大和出版刊)に収録された発言だ。 時間の価値は、改めて説明されれば理解できても、だれにでも平等に与えられているために、日頃は無自覚になりがちな対象である。時間活用のテクニックを講ずる前に、時間に敏感になる習性を身につけること。この習性を身につけず、テクニックを学んだところで、実践にはさほど役立つまい。
本田氏の発言をさらに追いかけてみよう。
「時間はタダのように見えるが、これほど値段の高いものもないんですね。みんなが薬を飲んだり、医者にかかって手術を受けたりするのも、当面の苦しみや痛みをとるのが目的でもあるが、根本的には少しでも自分の健康な時間を保って、坊さんの手に渡るのを先送りするためなんですね」
時間といえば、待ち合わせ時間に遅れる人、スピーチが長く出席者をイライラさせてしまう人もいるが、こうした人は“相手にとっての時間”という視点が欠落しているのだろう。忙しい、話好き、という理由で看過されるべきものではあるまい。時間を大切にする人は、相手の時間も大切にするものだ。
時間を大切にすることとは、資源を大切にすること。大切にすることとは、広義の稼ぐことにも通ずる。本田氏の結論はこうだ。
「成功者とは時間を稼いだ人間のことである、というけれど、私もそう思うな」
*本文中、本田宗一郎の発言は『本田宗一郎 潰れてたまるか』(坂崎善之著・大和出版刊)より引用させていただきました。